昨季、関東女子サッカーリーグ、関東大学女子サッカーリーグの両リーグで1部昇格を成し遂げた慶大ソッカー部女子。今季は念願の1部の舞台でさらなる高みを目指す。今回、ケイスポではチームの中心を担う主将、副将、監督に新シーズンの意気込みを語ってもらった。
開幕前特集のラストを飾る第3弾は、伊藤洋平監督の単独インタビューをお届けする。伊藤監督は昨季慶大ソッカー部女子の監督に新たに就任すると、その若さと論理的な指導法を武器にチームを“W昇格”へと導いた。二年目となる今季、自身初となる1部での戦いに向けたその思いと覚悟に迫った。
(取材日:3月6日)
――まずは、目標にしていた関東女子サッカーリーグ、関東大学女子サッカーリーグの“W昇格”を果たした昨季を振り返っていただけますか?
そうですね、最終的には上手くいったんですけど、シーズン全体を通して見ると、まあ前期は結構苦労したところも多くて、ただやっぱりそれを乗り越えたので最終的にああいう結果に繋がったのかなと思います。
――満足のいくシーズンでしたか?
もう満足するしかないですね(笑)はい。
――監督としてチームを率いる経験は昨季が初だったと思いますが、それまでコーチとして慶大ソッカー部女子を見ていてどのような印象を持っていましたか?
コーチとして見た印象は、やっぱり歴史と伝統のあるチームで、岩崎さん(岩崎陸前監督)が創設当初から作り上げてきたものなので、僕の役割としては選手と監督の間に立ってというところを心掛けていたので、やっぱり選手と監督の意見をなるべく尊重するように、伝統とか歴史を尊重するようなことを心掛けていました。
――昨季は監督就任初年度で”W昇格”を果たしましたが、手応えはありましたか?
本当に岩崎さんがここまで築き上げた土台があったから僕がちょっとそこに色を付けただけで、決して自分の力じゃないなと思ってはいます。
――昨季を通してチームとして一番成長したと感じるところはどこですか?
まずは、プレッシャーのある試合の中でも楽しむ気持ちを忘れないというか、プレッシャーすら力に変えるというのは精神的に成長したのかなというところと、それがピッチ内でも下からビルドアップをしていくというところにも繋がっているんじゃないかなと思います。
――伊藤監督の就任当初にはチームにそういったメンタリティーがなかったということですか?
そうですね、まあ絶対に(1部に)上がらなくちゃいけないというプレッシャーももちろんありましたし、環境やスタッフの体制も大きく変わったので、みんなやっぱり探り探りやっている部分があったんじゃないのかなと思います。
――昨季序盤は上手くいかない部分があった中、最終的には両リーグで昇格を果たしました。そのターニングポイントとなった試合はありますか?
そうですね…あまり意識していないというか、週毎に改善を繰り返していったので、気づいたらこうなっていたという感じですね。どっかで思い切り方向が変わったというよりは、本当にちょっとずつ微調整を繰り返していったという印象ですね。
学年が一つ上がって覚悟が決まっているんだなという選手がちらほら出てきているのは良い傾向
――ここからは今季についてお聞きします。今季は入れ替え戦の影響もありシーズンインが自ずと遅れるかたちになりましたが、そこについてはどう考えていますか?
まあ、ああやって最後1月に入ってからもチームとして毎週毎週伸びていったところもありますし、そこに関してはネガティブに考えてはいないんですけど、逆にちょっとみんな少しリフレッシュしてほしいかなと思っていたので、そこのリフレッシュが足りているかなというところが逆に不安です。
――まだシーズンインをして間もないですが、新チームの状況はどうですか?
そうですね、まあ一週間しか経っていないので全部は見れていないんですけど、やっぱり学年が一つ上がって覚悟が決まっているんだなという選手がちらほら出てきているのは良い傾向かなと思います。
――チームの雰囲気は良いですか?
そうですね。今はまだキツい練習ももちろんしていないですし、シーズンあたまから上げるというスタンスではないので、今はまだどちらかというとコミュニケーションとかチームビルディングというところを重視してやっているので。
――新入生の印象はいかがですか?
まだ全員見ているわけではないんですけど非常に楽しみな存在ではありますし、もちろん全体的なサッカーの方向性というのはある程度見せてはいるんですけど、その細部というのは1年生を踏まえて考えなきゃいけないなと思っているので、そういう意味では非常に楽しみではありますね。
初勝利とは言わず。全部勝ちます。
――新チームを見ていて昨季との違いなどは感じますか?
まあ野村智美(野村智美=総卒・現スフィーダ世田谷FC)が声を荒げていろいろ、それに対してみんなが反応していたという言い方は良くないですけど、一つ大きな支柱があったというのがあるんですけど、まあ中島菜々子(総4・十文字高)が支柱にならないというわけではないんですけどタイプが違うので、そういう意味ではみんなで作っていこうという意識が強いのかなとは思います。
――昨季は“W昇格”を果たしましたが、今季に向けて敢えて修正点をあげるとしたらどこですか?
やっぱり失点の仕方というのにはある程度パターンがありましたし、1部に対して今までよりもオープンにビルドアップするとやっぱり個があるので即失点にもつながると思いますし、そこは少しマイナーチェンジというか1部なりのビルドアップの仕方を頭の中では描いています。
――今季の目標として掲げた「インカレベスト4」、「早慶戦初勝利」について詳しく教えて下さい
そうですね、「インカレベスト4」は去年も西が丘(味の素フィールド西が丘)のピッチに見に行きましたが、もちろん自信はあって、去年のチームはあの時は2部にいたのでチャンスはなかったんですけど、まああのチームのままインカレに出ていたらベスト4に行く自信もありましたし、ただやっぱり今まで掲げて一度も成し遂げていない目標なので、ここで守備的に回って守りに入るのではなく、やっぱり一個突き抜けなくてはならないのかなと。インカレに関してはそんな感じで、早慶戦は4回あってすべて勝つつもりでやります。初勝利とは言わず。全部勝ちます。
――今季から新しく始めようとしている取り組みなどはありますか?
今まではどちらかというと自分たちでボールをコントロールできる試合が多かったので、相手に対するスカウティングなどはそこまでしていなかったんですけど、今年に関してはそうも言ってはいられないと思うので、スカウティングの体制を昨年以上に強化したいなと思っています。あとは、やっぱり応援してくれる人をいかに増やすかというところで、僕の策じゃないんですけど、新たにSNSなどを始めようかなと。いかに応援を力に変えるのかというところもちょっと取り組んでいきたいかなと思います。あとは、アンダーアーマーさんと協力して、慶應義塾体育会ソッカー部女子のブランディングを活発におこなっていき、女子サッカー界をリードする存在を目指していきたいと思っています。また、CLIMB FactoryスポーツITカンパニーさんが運営する選手のコンディション管理アプリの「Atleta(アトレータ)」の導入も始めます。栄養管理とか怪我や疲労の管理、記録を通じて、自身の体と向き合って欲しいという狙いがあります。
――今季は主将に中島選手、副将に工藤選手(工藤真子=総3・日テレ・メニーナ)が選ばれましたが、それぞれの印象と期待することなどがあれば教えて下さい
僕が決めたことじゃないんですけど、学生たちが決めたことなので、一生懸命時間を割いて話していたのでそこに対しては全く異論はないですし、僕も別に誰が主将で誰が副将だからどう変わるということはないので、一緒になってやっていきたいと思っています。中島菜々子については、話しやすい関係ではあるので、チームの上に立ってというよりはみんなの意見を聞きながらやっていってほしいなとは思いますね。工藤に関しては、ピッチ内で圧倒的に存在感があるので、それをやっぱりいかに周りに良い影響を与えられるかというところを期待しています。
――今季は昨季の主力メンバーのほとんどが残ることになりますが、そこについてはどのように考えていますか?
そうですね、まあ一旦全部リセットするのであまり関係ないかなと思います。
――戦い方などが継続できるということもあると思いますが
さっきも言ったように、ここで守備的に回ると同じ過ちを繰り返すんじゃないかなと思うので、やっぱり攻撃的なサッカーをどれだけ1部で貫けるかというところに挑戦したいなと思っています。ただその細部については、1年生を含めた全員の潜在能力とかを見てから判断したいなと思っています。
――では、今季のキーパーソンを挙げるとしたら誰になると思いますか?
難しいですね…でもやっぱり全員じゃないですかね。去年もいろんな人が点を取りましたし、誰か一人が圧倒的に力を持っているというチームではないので、もちろん点を取る人がすべてではないですし、後ろから繋ぐセンターバックやキーパーも含め全員がキーマンだと思っています。
自信はもちろんあります
――監督の思い描く理想的なサッカーとはどのようなものですか?
理想的なサッカーのスタイルは、やっぱりボールを持ってゲームをコントロールできる集団で、参考にしているのはバルセロナ(スペイン)とかナポリ(イタリア)とかマンチェスター・シティ(イングランド)とかレアル・ソシエダ(スペイン)とか、結構マニアックなところまで見てます。
――監督業をするうえで意識していることはありますか?
偉そうにしないってところですかね、一番は。まあ自分自身若いっていう自覚もありますし、社会人で言ったら普通にまだ中堅にもならないような歳なので、そこで偉そうにするよりもやっぱりどちらかというと下に降りて、よくコーチだと思われるんですけど(笑)でもそれでいいのかなと思っています。ちゃんとサッカーについてもしっかり根拠を持って意図を持ってやっているので、高圧的になる必要は全くなくてそこを理論的に説明できるという自負があるので、まあ敢えて偉ぶらないようにはしています。
――それでは、今季選手たち、チームに求めることは何ですか?
現状維持をしないようにしてもらいたいなと思っています。安定というのは僕はリスクだと思っていて、環境も時代も刻一刻と変わっていっているので、その中で失うことを恐れずに、いろんな意味で自分たちらしさを忘れずに変化し続けるということをみんなで続けていきたいなと思っています。
――監督としては初めての1部での戦いとなりますが、リーグ戦での目標はありますか?
関東リーグは1部残留を掲げていて、大学リーグの方はインカレベスト4に行くにあたり、やっぱりシード権とかを取ったほうが有利にはたらくと思うので、5位以内。そこもやる中で上方修正、下方修正が必要だと思うので、まずはやっぱりインカレに出ることが最優先事項になるんじゃないかなと思っています。
――今季、それらの目標を達成する自信はありますか?
自信はもちろんありますよ。はい。かなりあります(笑)
――最後に、応援しているファンの皆様にメッセージをお願いします
昨シーズンもたくさんの応援の方々がいたおかげで無事昇格できました。(今季は)アウェーが増えるんですけど、アウェーで遠いんですけどそれでも見に行きたくなるような、気持ちのこもった、美しく楽しいサッカーを作り上げていきたいと思っているので、ぜひ引き続き応援よろしくお願いいたします。
(取材:岩見拓哉 写真:高橋春乃)