【ラグビー】連載企画“SPIRIT” 第4回 川邊幸(主務)

ラグビー

悲願の日本一へ向け、日々戦いを続ける慶大蹴球部。しかしそこに所属する学生は、何も選手だけとは限らない。そこで、慶應スポーツでは4回に分けて、学生スタッフとして日々奮闘する4年生を特集。裏方に徹する学生たちの“SPIRIT”に迫る。

最終回となる第4回は、川邊幸(かわべ・さち=経4・慶應湘南藤沢)。4年生では唯一のマネージャーであり、現在は主務も兼任する彼女はラストシーズンを迎えた今、何を思うのか。

 

――まずは簡単に自己紹介をお願いします
川邊幸と申します。1年生の時からラグビー部に所属しています。高校まではスポーツに携わる機会がなく中高6年間演劇をしていたのですが、サポートすることや裏方としてチームを作り上げることに興味があって、大学ではマネージャーとしてラグビー部に入部して現在は主務も兼任させて頂いています。唯一の4年生マネージャーです。

 

――大学入学まで演劇を続けて来られたということですが、大学でも演劇を続けようという思いはなかったのですか

演劇をしていた時は一緒に夢中になって取り組んでいた仲間がいる環境が好きだったのですが、そういった雰囲気は大学での活動にはないだろうなと感じ、何かに夢中になれる環境を求めてラグビー部を志望しました。ただ入学当時はラグビー部に入部できるスタッフの人数も限られていたので、入部することができていなかったら演劇を続けていたかもしれませんね。

 

 

――川邊さんの出身高校(慶應湘南藤沢)にはラグビー部がありませんが、どうして体育会の中でも蹴球部を選んだのでしょう

親戚に慶應ラグビー部のOBがいたということもありますが、ラグビーという競技に惹かれて入部したというよりは、マネージャーの仕事内容に興味があって。例えば学生なのに自分たちでグッズを考案してそれを売り、そこで出た利益でプロテインを購入してチームの強化に貢献したり、経理も膨大な金額を扱ったりという機会ってなかなかないですよね。そしてこの競技の特徴として大きい選手が強いという傾向があるので、部員が強く成長できるように食事面など様々なサポートをするなど本当に色んな仕事が出来るという点で一番やってみたいと思った部がラグビー部でした。ただ入部するまでラグビーに触れる機会はあまりなくて、同期の試合を見に行ったこともありませんでしたし、そういう意味では全くの素人でした。

 

 

――大変な部分もあったのではありませんか

そうですね。まずルールを覚えるところからだったのでその勉強をしたり、試合の記録をとれるようになるために色んな試合を見たりということはありましたね。また入部当初から同期の女子マネージャーがいなかったので、そういう意味では仕事量も多く、先輩方との連携も含め色んな仕事の割り振りなどには苦労をしました。

 

 

――具体的にはどのような仕事があるのですか

学年によって違いますが、1年生の時は、練習中に選手が摂取するゼリー飲料やバナナの管理・注文を行います。バナナは段々と黒くなってしまうのでその管理は大変です。日々の生活に密着した仕事内容が多いですね。そこから徐々に経理や試合の入場券を数千枚単位で管理と言った部の運営に関わることが増えていきます。選手の食事管理をすることもありましたが、食事メニューを見てそれに対してコメントをしていました。

 

マネージャーとしての仕事もこなす

――普段の練習だけでなく、試合中も仕事はありますよね

女子マネージャーは選手テントではなく受付で業務をしてチケットのもぎりなどをしますが、今は主務も兼任しているということで試合中も選手テントにいて、アクシデントがあった場合の対応や交代の補助、具体的にはヘッドコーチの交代指示のタイミングを察知してそれを選手に伝えるという仕事を、女子マネージャーとしてはおそらく史上初めてしています。アクシデントの対応なので、本当はあまり仕事がない方がいいんですけどね。

 

――主務を兼任されるようになってから、試合中などチームへの見方の変化はありましたか

全然違いますね。インカムをつけて監督の指示やけが人の対応など、少しでも間違えてしまったら試合の流れが変わってしまうような内容が耳元に聞こえてきます。(主務を兼任するまでのような)試合までに様々な準備を重ねて試合中は祈るだけという立場から、試合中も一つ一つの行動が流れを左右してしまうという緊張感を持たなければならない立場に変化しました。同時に、マネージャー陣の雰囲気を作り上げるのも4年生の務めですから、そういったことは私の言動にかかっていると思うので、常に良い意味でも悪い意味でも意識してしまう部分はどうしてもありますね。ある程度厳しく接するということはやっぱり必要で、主務という立場から見て良くないなと思うことがあればそれをしっかり相手に伝えなければなりません。マネージャーも選手と同様に集中して緊張感を持つ必要がありますから、時には厳しい言葉をかけることもあるんですけど、だからと言って先輩として厳しく接するだけでは、それぞれが平等に互いに意見し合い刺激し合う関係になれないのでオンとオフの切り替えというか、スイッチをどこで入れるかという点で悩んでしまうこともあります。

ベンチから試合を見守る川邊(写真中央)

 

――大変なことも多いと思いますが特にそれを感じるのはどんな時でしょうか

私の中での理想の主務は、2割の力でデスクワークなどチームの核となる仕事をしつつ、残り8割はチーム全体を、余裕を持って眺めながらチームの現状を把握している状態なんですけど、2つの職務を兼任しているということもあり、チームの核になる仕事が膨大で。理想とは力配分が逆になっているなと感じて、そのバランスは難しいなといつも思いますね。

 

 

――休日もなかなかとれませんね

何もしない休日は主務になってからは1日もない気がします。気にかけてくださっているOBの方との交流や緊急事態の対応をしなければならないので、練習が休みの日も毎日寮に通って、何かしら活動をしていますね。

 

 

――お忙しいとは思いますが、ワールドカップはご覧になっていますか

家や寮のテレビで見ていますよ。寮ではみんなが見ている後ろから見ています。ワールドカップが盛り上がるたびに(周囲の)慶應ラグビー部に対する今までなかった関心が生まれて、チケットの問い合わせや応援の声なども増えたので、日本代表や大会が盛り上がることで慶應ラグビー部も注目されるようになったという実感があって、嬉しかったですね。早慶戦に行ってみたい、ルールがわかったから実際に試合を見てみたいという声が想像以上に大きかったので、慶應ラグビー部のファンを増やすチャンスだと思っています。

 

 

――常に慶大蹴球部のことを考えながら代表戦をご覧になっていたのですね

そうですね。やっぱりこの盛り上がりをどうチームに還元できるかなということを思いながら観てしまいますね。ついつい自分の部活のことを考えてしまいます。

 

――大学からラグビーに関わるようになって、いつもチームのことを第一に考えられている川邊さんですが、高校まで続けていた演劇での経験が今の蹴球部での活動に生きているなと感じる瞬間や、共通しているなと感じる部分はありますか

たくさんあります。まず舞台の経験があるので人前に立つということにあまり抵抗がありません。主務として大勢の前で発言することも多いですし、26人いる同期の中で意見をいうことももちろんありますが、そういった中でも躊躇なく声を出せますね。

共通点としては、どちらも一発勝負の本番のために準備を重ねるという部分ですね。演劇の舞台は年に3回ありましたが、その日のために他の時間をほぼ毎日費やしていました。1回の舞台をどう成功させるかということを皆で真剣に考えていましたね。これってラグビーにも通じる部分だと思うんですけど、やっぱり毎週の試合をベストな状態で迎えられるように準備を重ねて、本番で何かアクシデントがあった時もそれに対して柔軟に対応するということが求められるという意味では共通していることが多いなと感じます。

 

 

――高校時代の演劇仲間が好きだったというお話もありましたが、今の環境の雰囲気などはいかがですか

全然違いますよ。中高の時は女子5人だけで活動していましたが、今は良くも悪くも意見や主張が強い人も多くて、コミュニケーションなどの面で最初はきついな、難しいなと思うこともありました。同期との間で意見を言い合う機会は多かったですね。その中でも特に主将(栗原由太=環4・桐蔭学園)と副将(川合秀和=総4・國學院久我山)とは色んな話をしています。私は悩みなどを溜め込んでしまう性格なのですが、2人はそのことをよく理解してくれて、悩んでいる時はそれを察して先に声をかけてくれます。

1つ下の学年の女子マネージャー2人にも色んなことを相談しています。いつも私のことを支えてくれる本当に大切な存在です。

栗原

川合

 

――そんな同期の皆さんと過ごしたこれまでを振り返って、印象深い出来事はなんでしょうか

やっぱり試合に勝った時ですね。勝った瞬間、これまでやって来たことの全部が詰まっているなと感じますね。日々の生活の中で嬉しかったことや苦しかったことはありますが、それは毎日更新されていくものなので、試合に勝った瞬間にそれらも含め、どうしても込み上げてくるものがありますね。

 

 

――これまで積み上げて来られた4年間で特に今はチームにとっても重要な立場にいらっしゃいますが、川邊さんご自身はチームの中でどんな存在だと考えていらっしゃいますか

マネージャーの中ではしっかり意見を言ってしっかりと要所要所を締める立場だと思っていますが、チーム全体だとスタッフとして全体を見回しながら地に足をつけてチームを支える存在ですかね。

 

 

――それは川邊さんが目指して来られたマネージャー像であり主務像なのでしょうか

主務として、思ったことも言わなきゃいけないという部分でスタッフの長として、もう少しそういった事をしても良いのかなとは想います。そこはこれからの試合や練習の中で取り組んでいきたいです。

練習の際にドローンを飛ばすのも川邊の役目だ

実際に使われているドローン

 

――対抗戦がまた始まりますが、この秋ここまでを振り返って

悔しい思いをすることが多かったです。選手は毎試合毎試合全力を尽くしていることはわかっていますが、それでもやっぱり勝てなかった試合もあって振り返るとただただ悔しいです。それでも前に進まないといけませんし、それは選手だけでなくスタッフにも言えることで、1試合やりきったと自信を持って言える準備が出来ていたのかなと振り返ると、まだ足りない部分はあるなと感じます。結局それが試合結果にも表れてきますし、さらに上の段階に行かなければならないと思っています。特に対抗戦で負けてしまった筑波大戦は準備が足りなかったと反省していて、自分たちが出来ることは何か、まだ他に出来ることがあるのではないかということはスタッフ全員に向けて発信しています。後半戦は一瞬でも気を抜いたら終わりなので、そういう緊張感を持って準備の段階から大切にしていかなければならないなと考えています。

 

 

――この1ヶ月、ワールドカップに伴う対抗戦休止期間でしたが練習試合などもありました。チームの変化、成長を感じる部分はありますか

この期間をすごく大切にしてきたつもりです。これまでマネージャーは仕事に追われてばかりでしたが、それ以外のチームの根幹である、グラウンドは綺麗に保たれているだろうかといったことや、チームのテーマである“Unity”に向かって活動できているかといったことを改めて考え直して、選手一人一人に向き合えるように意識するようになりました。こういったことをマネージャー同士で話す機会はあまりなかったのですが、ミーティングを重ねて今まで欠けていた部分や既存の仕事内容を見直したことで、新しいことにチャレンジできた1ヶ月になったかなと感じます。まだまだ発展段階ではありますが、確実に成長や変化は表れています。周囲にも指摘してもらって、マネージャー・主務として自分自身も変われたかなと思いますね。

 

 

――そんな着実に成長を続ける慶大蹴球部の、対抗戦後半の戦いの中で見どころは

実は昨日(10月23日)、4年生でミーティングをしました。この代の良いところは、何か突拍子もないことをいう人がいなくて、まとまっているという部分なのですが、逆に腹を割って話すことが出来ていないという問題もあって、それぞれが抱えているものやチームに対して言わなければならないことがあるのにぶつけ合うことが出来ていませんでした。昨日熱量を持ってぶつけたことで、今のチームで勝ち上がっていきたいという気持ちを全員で再確認しました。今まで以上に結束することが出来たので、一新した4年生の“Unity”とそこから生まれる皆のパワーを見てほしいです。そこが魅力です。

 

 

――共に闘う選手の皆さんに伝えたいことはありますか

4年間、思い出しきれないほど沢山のことがありましたが、本当に最後なので、特に同期には1つになって勝ちたいということですね。チーム全体に対しては、チームを作るのは1年生から4年生まで全員の力なので皆で強くなりたい、勝ちにいこうぜ!ということを伝えたいです。

 

 

――ファンの方の応援も盛り上がってくると思います。ファンの皆さんに向けてメッセージを

試合に出ている人だけではなくて、スタッフも全員で勝ちたいと思って活動しています。試合に臨むまでの色んな人の想いや背景などもプレーから感じていただきたいです。後半戦は強い慶應ラグビーをお見せできると信じているので、声援は本当に力になりますし、1人でも多くの方に球場まで足を運んでいただいて1人でも多くの方に声を出していただきたいと思います。

 

――お忙しい中ありがとうございました!

 

 

(取材:栗栖翔竜 写真:船田千紗)

【ラグビー】連載企画“SPIRIT”

第1回 岡本爽吾×鷲司仁(学生コーチ)
第2回 渡部朔太朗(分析/学生レフリー)
第3回 井上周×山口耕平(学生トレーナー)

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