開幕直前特集第6弾は大久保秀昭監督。昨年春から慶大野球部を指揮する監督も、開幕が近づく秋のシーズンで早くも4シーズン目を迎える。自身が監督に就任してからはまだ成し遂げられていないリーグ戦での優勝。その夢へ向けた思いや慶大野球部への思いを、熱く語っていただいた。
――4位という結果で終わった昨季を振り返っていかがですか
単純に優勝ではないというところで、面白くない、悔しい、それだけです。
――開幕が近づく中、現在のチームの雰囲気は
オープン戦の勝ち負けで変わるようだといけないし、自分たちの課題というのは各々わかっていると思うので、そういうところに関して方向性が一致しているというか、やろうとしていることが共有できていれば、いい方向に行くんじゃないかなとは思います。
――この夏は伊豆や福島でのキャンプを行いましたが、その手ごたえはどう感じていますか
期間が10日とか1週間だったので、その中で急激にうまくなるとは思っていません。目的としては練習時間の確保です。200人近い部員の全員に練習をさせてあげたいし、優勝するにはレギュラー組がいっぱい練習をしなければならない、という中で練習時間の確保という点では、非常に良かったと思います。いっぱい練習ができて良かったという部員も多かったので、また今後もできればやろうと思います。
――具体的にはどのような練習を積んできましたか
基本は、数を打つ、投げる、捕るといったところがメインです。ピッチャーは、ただ投げるだけではなくてストライクを取り続けるということをテーマにやってきましたが、それをどういう形で出してくれるかは、未知数です。
――昨季はエース加藤拓也(政4)投手にかなり頼る形となった投手陣の起用法についてはどう考えていますか
全くの未定です。期待はするけれども、逆に誰が出るんだろうなという感じです。リーグ戦の中で成長してくれれば嬉しいですし。ただそこに持っていく準備とか候補の強化は、林助監督を中心にずっとやっています。1・2年生といったリーグ戦未経験者が投げる可能性も十分にあるし、エースの加藤拓も、投げる試合では全部勝つつもりでいるだろうと思います。簡単に点を与えているようでは、他の大学のいいピッチャーから点を取るのが難しいことはわかっていると思うので、勝つとしても1-0とか2-1といったロースコアにもっていかないと相手を有利にさせてしまうという気はします。
――昨季終盤に大きな変更を行った打順については、何か構想はしていらっしゃいますか
昨季打順をいじったのは、単純に1・2番の出塁率が悪かったからです。今季は当然勝つ確率の高い打順でいきます。いるメンバーの中でいかに勝っていくかを考えると、対戦校や対戦ピッチャー、あるいは状態によっては打線を変更することは多々あると思います。V9の時のジャイアンツではないですが、理想は前後のつながりも含めて1番から9番まで固定でいくことですけど、そこまでの戦力ではない。相手を圧倒できる力があるのかと言われれば、そこは足りない部分もあるので、こっちが見極めてやっていくよという話は選手たちにもしています。以前は応用力や対応力が乏しいと感じていましたが、こちらの考えとかも伝えながら、だいぶ状況に応じて対応できる選手が増えてきたなという気はしています。
――春の新人戦では準優勝を遂げるなど、下級生の活躍も目立ってきていますが、どう感じていますか
頑張っているよね。1年生なんかは特に大学生活や大学野球に慣れてきたという部分も含めて勢いを感じるし、それに押し上げられる形で2年生も元気よくやっています。選手の層としては今の4年生までは慶應義塾高出身の選手を中心にそれなりの選手がいますが、来年以降選手層として少し落ちるかもしれないけど、熱さとか元気ある気持ちのいい選手が増えてきているという点では、選手はいないけどチーム力で勝てるんじゃないかなという手ごたえは感じています。
――ラストシーズンとなる4年生には、どのようなことを期待していますか
4年生が活躍することが一番理想で盛り上がるし、優勝をするかしないかでは全然違うから、そういう部分では当然期待値は大きいです。けれども、4年生全員をベンチ入りさせて優勝ということもさせてあげられないから、ベンチ入りした4年生がどれだけチームに関わってくれるのかなと思っています。その辺ができてきたときに、優勝も近づくのかなと。
――今季はどのような勝ち方を思い描いていますか
もう選手たちには伝えてありますが、理想なんかは語らずに、慶應は何するかわかんないなみたいな。誰が出てくるかもわからないし、どんな野球をするかもわからないし、打ち勝つのか守り勝つのかもわからないし、そういうチームでいくという話はしました。デンジャラス慶應みたいな(笑)。スマートにきれいに勝つとかではなくて、「近寄ったらやけどするよ」くらいの熱さや闘志を、戦略も含めて出せたらと思います。どこまでいけるかはわかりません。
――その中でキーマンと考えている選手はいますか
誰っていうのは言えないけど、「お前頼む」っていうのは当然加藤拓也。加藤拓には、「7勝して。そうすれば優勝するから。あと3勝は他のピッチャーで拾っていくから」と言ってあります。その他の選手だと、河合大樹(総2)なんかはレギュラーで出ちゃうんじゃない。その辺も含めて、新しい選手が出たり、中軸だと思っていた選手がもしかすると出ないという状況にはなってきています。外野でいうと今は天野康大(環3)なんかも調子がいいし、そういうところもこっちの判断でやれたらなと思います。
――優勝をするために現時点でまだ足りないと感じている部分はありますか
足りないところだらけです。戦力は今の戦力で十分なので、これで優勝できたら本当に幸せです。僕の思いは、部員全員を幸せな気持ちにさせてあげたい、ただそれのみです。部員が幸せになれば、僕も幸せになれる、そういう思いだけです。ただ幸せにするためには、相当の準備や覚悟が必要だし、いろんな批判も受け入れなきゃいけないし、全部覚悟のうえで大胆に思い切ってやろうと思います。弱者の戦略ではないですけど、どうしても評価は3番手4番手、ダークホース的な位置づけなので、それで勝つことができて本当にやってよかったなとかああいう取り組みをしてよかったな、という風になってくれればいいと思います。
――慶應の監督としての醍醐味とは
慶應は他の大学と違ってそれほど有名でない高校からきている選手も多くて、常に欲しい選手がいるわけでもない。早稲田がスポーツ推薦でとるなんて言ったら、それは受験の必要な慶應よりは早稲田に行っちゃう。ただそういうチームにも勝ったりすることがあるから、野球は面白い。選手がいないからしょうがない、なんて全く思っていないし、優勝するかどうかは後付けだけれども、これでいいものが構築できれば自分の財産にもなる。今の学生たちとの間の違いも大きいし、それに柔軟に対応しなければいけない。自分たちの都合だけでやっていてもうまくいかないことはすごく感じたので、今はそこを軌道修正しています。もちろん現状も最高のチームを目指してやっているけれど、理想は2年後に最高のチームを作り上げることで、その手ごたえも感じています。いい選手もいるし、最初に来た時よりも規律がだいぶ変わってよくなってきていて、強くなるきっかけづくりはできているなと感じます。
――監督にとって、選手たちとはどのような存在ですか
ある時は監督であり学生で、ある時は監督であり選手であり、引退をしたら一人の人間と人間として付き合っていける関係でありたいな、と思っています。だから、子供でもないですし、自分もただの教育者ではないと思いますし、野球人としての先輩後輩、慶應の先輩後輩としていい付き合いをしたいと思います。学生の方はそこまで思っている子は、少ないと思うけど。本当はもっと学生と深く関わっていきたいと思っているのですが、学生の方も敏感なので。子供ではないですけど、言葉を選ぶなら縁というところの繋がり、この縁をずっと大事にしていきたいです。
――応援してくれる方々へのメッセージをお願いします
この夏はオリンピックもありましたし、スポーツで感動とか夢とか諦めないといったことを感じたことが多かったと思います。慶應の野球部も、神宮球場で一人でも多くの人にそういう部分を提供できたらなと、そして優勝という形で恩返しできたらなと思っています。ですので、神宮球場に足を運び応援していただけたらと思います。
――お忙しい中ありがとうございました!
取材:重川航太朗、高橋廉太朗