【ソッカー(男子)】<コラム>長いトンネルを抜けた韋駄天 感謝を胸に、小谷春日はゴールへ突き進む

ソッカー

関東リーグ後期が開幕して2週間が経った。前期とは打って変わって2戦連続4-0の圧勝と快調な滑り出しを見せた慶大ソッカー部。主将の松木駿之介(総4・青森山田)が2試合5得点の大活躍を見せている中で、もう一人、2連勝の立役者となった男がいる。FWの小谷春日(環4・藤枝東)だ。圧倒的なスピードで相手守備陣を置き去りにしゴールに向かう今の彼はまさに攻撃の要。2試合連発ゴールでチームを引っ張る彼だが、この活躍までの道のりは決して平坦なものではなかった。

小柄ながらもスピードとキレのあるドリブルを武器に、1年次からコンスタントに関東リーグ出場を重ねてきた小谷。2年次までは試合の途中から出場して流れを変えるスーパーサブ的存在であったが、3年生になった昨季からは運動量や守備を意識したことでスタメン起用が増加。攻撃陣をけん引する存在として、ゴールが期待されてきた。しかし、1年次の初得点を最後に、小谷は長いこと関東リーグのゴールネットを揺らすことができなかった。得点力を欠いたチームは昨季2部に降格。FWとして責任や歯痒さを強く感じた3年次となった。

ジョーカーとして信頼を得たが、ゴールからは見放された

 

チーム、個人ともに悔しさが募る時期を乗り越え、最高学年として迎えた今季。「サッカー選手である以上、試合の最初から出たいという気持ちが強い」。そう意気込んでいたものの、リーグ戦前期の出場は11試合中わずか5試合。そのうち4試合は途中出場にとどまった。最後のシーズン、これまでで一番出場機会が少ないという厳しすぎる現実。チームの勝利を誰よりも考え、自分の役割を全うしてきたからこそ、大きなやりきれなさが彼を襲った。重圧に押し潰され、「腐りかけていた時期」もあったという。そんな中で彼の大きな支えとなったのは同期の励ましだった。周りからの鼓舞があったからこそ、自分自身を信じ続けることができた。

 

夏場の過酷なトレーニングを終え、迎えた関東リーグ後期開幕戦。リードを奪った慶大イレブンに、さらなる勢いをもたらしたのは小谷だった。第7節ぶりに先発出場を果たすと、後半29分、前線でタイミング良く裏に抜け出し、スピードに乗って右足一閃。これが小谷にとって、約3年と4ヶ月ぶりの関東リーグでのゴールの瞬間となった。「4年生として、自分がやらなければいけない」。その強い思いが見事にプレーで体現された。ゴールネットが揺れた直後、ピッチ内外の選手たちが一目散に彼に駆け寄り、喜びを爆発させた。「自分が苦しかった分、ゴールで恩返しできるのはすごく幸せなこと」。支えてくれた全ての人のために、チームのためにゴールを。揺るぎない決意を胸に、小谷は走り続ける。

学芸大戦でゴールを決めた直後の小谷とチームメイト

長らくぶりにゴールをこじ開けたストライカーの勢いは、止まることを知らない。第13節・東海大戦でも先発すると、クロスに勢いよく飛び込んでPKを獲得。これを冷静に沈めて、2試合連続で得点を挙げた。時間こそかかってしまったものの、ゴールゲッターとしての期待に確実に応えている。後期開幕2連勝を成し遂げた試合後、「期待しておいてください」と彼は笑顔で語ってくれた。今の荒鷲イレブンの姿を目にして、誰が胸を膨らませないだろう。大量得点かつ無失点、攻守に文句なしの2連勝はそう思わせるに十分なパフォーマンスだ。小谷にとって16年間続けてきたサッカー人生も残り約2ヶ月。「自分にはサッカーしかない」と振り返るほど、常に大きな熱量を注いできた。「最後は灰になっちゃうくらいやりきって、最高の同期と笑って終わりたい」。長いトンネルを抜け出した彼の後期に懸ける思いは、並大抵のものではない。1部昇格という高い目標を成し遂げるために、キーマンとなるのはこの男。最後の舞台でとりわけ大きな輝きを放つ小谷が、歓喜の瞬間を届けてくれるはずだ。

(記事:髙橋春乃)

 

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