令和8年度全日本学生レスリング選手権は大会最終日。慶大からは3選手が出場した。フリースタイル74㌔級の瀧澤勇仁(経2・慶應)は、「山場」と語っていた準々決勝で残り3・32秒で逆転勝ち。続く準決勝もらしさ全開のクレバーな戦いで勝ち進んだが、決勝は1―4のポイント判定負け。それでも、昨年の3位を上回る準優勝に輝いた。
フリースタイル79㌔級の近藤大朗(総3・名古屋)は3回戦(ベスト16)で敗退。フリースタイル97㌔級の佐藤秀一郎(環4・八千代松陰)は3回戦(ベスト8)で敗れ、メダル獲得はならなかった。
慶大は1971年の佐藤勝さん(フリースタイル68㌔級)以降インカレ優勝から遠ざかっている。昨年のフリースタイル86㌔級で準優勝した岡澤ナツラ(現法2・慶應)に続き、今回の瀧澤も準優勝。悲願達成は来年以降に持ち越しとなった。
文部科学大臣杯 UNIVAS CUP 令和8年度 全日本学生レスリング選手権大会 4日目(最終日)
2026年8月23日 @東京・駒沢オリンピック公園総合運動場体育館
フリースタイル74㌔級
3回戦
瀧澤勇仁○[VPO 6:00=6-1]●小菅慶士(拓殖大学)
準々決勝
瀧澤勇仁○[VPO 6:00=2-2]●伊藤海里(山梨学院大学) ※ラストポイントで瀧澤の勝利
準決勝
瀧澤勇仁○[VPO 6:00=6-2]●江口翼(拓殖大学)
決勝
瀧澤勇仁●[VPO 6:00=1-5]○山下凌弥(日本体育大学)
フリースタイル79㌔級
3回戦(ベスト16)
近藤大朗●[VSU 4:16=1-12]○菊田創(青山学院大学)
フリースタイル97㌔級
3回戦(ベスト8)
佐藤秀一郎●[VSU 4:03=1-11]○松本倖希(育英大学)
※スコアはすべて慶大選手を左、相手選手を右に表記。フリースタイルは10点差でテクニカルスペリオリティ。
前日の大会3日目、夕方に落雷で駒沢体育館が停電し、計66試合が最終日に持ち越し。勝ち進んでいた瀧澤勇仁(経2・慶應)、近藤大朗(総3・名古屋)はそれぞれ1試合が持ち越しとなった。佐藤秀一郎(環4・八千代松陰)は持ち越しはなかったが、全選手が試合時間の変更の影響を受けた。
フリースタイル79㌔級3回戦に挑んだ近藤。対するはU-23世界選手権大会への出場経験をもつ菊田創(青山学院大学)。相手を押した隙を突かれて足を捉えられるも、冷静に対処して難を逃れる。その後は両者ともに攻め時をうかがう展開が続いたが、近藤が仕掛けたタックルをカウンターで返されて2点を先取される。すぐさま相手を場外へ押し出して1点を返したものの、直後に相手の鋭いタックルからテイクダウンを奪われ、さらにローリングで加点されて1―6で第1ピリオドを折り返す。反撃に出たい第2ピリオド。果敢にタックルを仕掛けるが、巧みに返されてテイクダウンを許してしまう。マットに這って懸命に耐え抜こうとするも、相手の強力なローリングを止められず連続失点。1-12と差を広げられ、テクニカルスペリオリティ負けを喫した。

近藤(赤のシングレット)

フリースタイル97㌔級の佐藤は3回戦(ベスト8)に出場。松本倖希(育英大学)の攻撃に対し守勢を強いられると、押し出しで先制点を許してしまう。その後1点を返すも、押し出しでさらに3点を失う苦しい展開に。そして、第1ピリオド終了間際にはテイクダウンとローリングにより4点を奪われ、突き放される。攻勢を強めたい佐藤だったが、押し出しとテイクダウンにより3点を失い、1-11で敗戦。メダル獲得とはならなかった。


佐藤(赤のシングレット)
フリースタイル74㌔級に出場した瀧澤。3回戦(ベスト16)、先に瀧澤が仕掛けると、テイクダウンにより2点を先取。さらに相手のタックルをかわし、そのまま相手を押し出して1点を追加した。その後は相手の隙を伺うも得点には至らず、3ー0で第1ピリオドを終えた。第2ピリオドは後がない小菅慶士(拓殖大学)の攻撃を受ける展開に。押し出しで1点を返されるものの、落ち着いて相手のタックルをいなし、カウンターから押し出しとテイクダウンで3点を追加。最後までリードを守り、3回戦を突破した。

瀧澤(赤のシングレット)
準々決勝の相手は、瀧澤が3位だった4月のJOCジュニアオリンピックU20で準優勝の伊藤海里(山梨学院大学)。激戦区・74㌔級屈指のレスラーだ。瀧澤は前日の大会3日目から、伊藤との試合が「山場になる」としていた。
試合直前に瀧澤にキーポイントを尋ねると、「足を触られないように」距離を取り、タックルからの失点を防ぐことだと答えた。また、ロースコアの接戦になることを確信し、「2―2になりそう」と予想していたが、これが完璧に的中。実際に2ー2で試合を終える。
第1ピリオド序盤、伊藤の足を取りかけるが攻め切れずノーポイント。開始2分頃、2度のパッシブからアクティビティタイムがタイムオーバーとなり、先制される。さらにタックルに入られ、大量失点のピンチだったが、ステップアウトの1失点のみに留める。試合後、「2(失点)じゃなく1(失点)に抑えた」この場面が大きかったと振り返った。第1ピリオドは0ー2で終える。
第2ピリオド開始早々、ステップアウトで1点を返すと、ここから攻勢を強める。「残り1分くらいから仕掛けると飛び込みタックルとかで取れないことが多いので、残り2分くらいから攻めた」。しかし、なかなか得点に至らない。残り45秒頃、タックルを試みるがまたしても寸前でかわされる。敗色濃厚の残り7秒、一瞬の隙を突いて胴タックルに入る。伊藤の右足首を捉えると、場外に押し出し、1点を獲得。ラストポイントを持つ瀧澤が逆転する。残り3・32秒、伊藤のタックルを冷静に捌き、逃げ切った。

1点差に迫った場面、瀧澤は赤のシングレット

「残り2分くらいから攻めたのが功を奏して、相手がちょっと守りに入って崩れてきたので最後の落としからのタックルがうまく決まったと思います」。ジャブのようなしたたかな攻めが生んだ一瞬のチャンスをものにした。

準々決勝の試合後、ガッツポーズをつくった瀧澤と、瀧澤をたたえるスタンドのチームメイト

続く準決勝の相手は昨年の全国高校生グレコローマン選手権で優勝している江口翼(拓殖大学)。先にパッシブを取られた瀧澤だったが、すぐさま鋭いタックルから相手を場外へ押し出して1点を先取する。相手の出血による一時中断を挟んだ後、今度は相手に2度目のパッシブが課される。30秒のアクティビティピリオド中に相手が得点できなかったため、瀧澤に1点が追加された。その後も持ち味のタックルが冴え渡りテイクダウンを奪取。第1ピリオドを4-0とリードして折り返す。
第2ピリオドも序盤から果敢に攻め立て、押し出しでさらに1点を追加。相手も反撃の糸口を見いだそうと猛攻を仕掛けてくるが、瀧澤は冷静にかわしていく。終盤に場外への押し出しで2点を奪われたもののリードを守り切り、6-2で勝利。危なげない試合運びで見事、決勝へと駒を進めた。

準決勝の瀧澤(赤のシングレット)
決勝の対戦相手は、大方の予想通り第1シードの山下凌弥(日本体育大学)。山下とは昨年のインカレ準決勝で対戦し、瀧澤が1ー6のポイント判定負け。今年5月の明治杯3位決定戦でも対戦し、瀧澤が0ー2のポイント判定負けを喫している。

今年5月の明治杯(瀧澤は赤のシングレット)
山下について、「フィジカル・体幹・スピード」といったあらゆる身体能力が高く、「ガツガツ攻めてくる」と試合前の瀧澤。試合運びについては、負けている展開で第2ピリオドに入ることも覚悟し、第2ピリオドの「ワンチャンス」で足を取り、最終的には1点リードかラストポイントで勝利できればと目論んでいた。吾田鉄司監督は、瀧澤らしい「クレバーな試合運び」をできていると準決勝までの戦いぶりを評価し、決勝では「互角以上の戦いを見せてくれると思います」と話していた。
第1ピリオド、開始1分頃にステップアウトで先制する。しかし、すぐさまステップアウトを許すと、第1ピリオド終了間際にも再びステップアウトで失点。1ー2で終えたが、ここまでは想定の範囲内。「結構戦えた」と第1ピリオドを振り返った。

決勝の瀧澤(青のシングレット)

1点を先制する
「どこかで足を取れれば『あるな』と思っていました」という第2ピリオド。しかし、残り2分20秒頃にタックルから場外際でコントロールされ、2点を献上してしまう。このプレーが高くついた。「2点取られたのが痛かった」。得意の場外際だったが、山下の攻撃をかわすことができなかった。「1(失点)か、もしくは手を振って押し出せるかと思ったけど、振りすぎて手が抜けちゃったので、最悪あそこはリスクヘッジの1(失点に留めるような動き)でも良かったかなとも思います。あそこで1ー4になっちゃったので、展開的には結構厳しくなってしまいました」。終盤は反撃を試みたが、3点ビハインドを跳ね返すのは容易ではなかった。終了間際にステップアウトでダメ押しの1点を献上。1ー5のポイント判定負けとなった。

決勝は悔しい敗戦となったが、準々決勝の逆転勝ちは大学入学後はなかなかなかった、接戦の終盤に自らの攻撃で決着をつける勝ち方だった。山下との差についてはやはり「フィジカル」と試合後の瀧澤。11月の内閣総理大臣杯での逆襲を誓った。
今回は岡澤ナツラ(法2・慶應)がU20世界選手権と日程が重なり、インカレにエントリーしなかった。慶大勢としては1971年の佐藤勝さん(フリースタイル68㌔級)以来優勝から遠ざかっていることについて、吾田監督は、来年のインカレで瀧澤と岡澤により2階級制覇することに期待を寄せた。
(取材・記事:柄澤晃希、檜森海希、奥秋柚生)
【試合後インタビュー】
瀧澤勇仁(経2・慶應)

――今の率直な気持ち
悔しいけど、(決勝は)思ったよりやられなかったのは安心というか、優勝したかったけどフィジカルの差を感じました。
――昨年4月のJOCU20で準優勝、昨年8月のインカレで3位、今年4月のJOCU20で3位と、大学入学後はあと一歩優勝に届かない大会が続いていた中で、今回はどんな意気込みで臨んだか
準々決勝が山場でしたが、結構いいトーナメントだったので、決勝には頑張ればいけると思っていました。山下凌弥くんがたぶん上がってくると思っていて、この大会の10日前くらいの全日本合宿でも何回かやって、勝てはしなかったけどやっていくうちに慣れてきたので、ワンチャンスで決めたいと思って意気込んでいました。
――山場となった準々決勝を振り返って
ロースコア、2―2になると言っていた中で1―2で残り2分くらいになりました。残り1分くらいから仕掛けると飛び込みタックルとかで取れないことが多いので、残り2分くらいから攻めたのが功を奏して、相手がちょっと守りに入って崩れてきたので最後の落としからのタックルがうまく決まったと思います。
――決勝はビハインドで第2ピリオドを迎え、準々決勝と同様に試合前に予想していた通りの展開となった
1ー2の(僅差の)展開だったし、前半結構戦えたので後半どこかで足を取れれば「あるな」と思っていましたが、(第2ピリオドで)場外際の所でタックルに入られて2点取られたのが痛かったです。1(失点)か、もしくは手を振って押し出せるかと思ったけど、振りすぎて手が抜けちゃったので、最悪あそこはリスクヘッジの1(失点に留めるような動き)でも良かったかなとも思います。あそこで1ー4になっちゃったので、展開的には結構厳しくなってしまいました。3点はなかなか取りづらいので。
――山下選手とはトーナメントの終盤で当たることが多いが、倒すために必要なこと
やっぱりフィジカルを強化するしかないと思います。パワーとスピードが全然勝てていないので、互角に戦うにはそこをつけて押し出されないように、逆に自分が押し出せるパワーとスピードをつけることが一番だと思います。
――内閣総理大臣杯に向けて
11月半ばまで時間があるので、体をデカくしてもっとパワーつけて、互角に戦えるように頑張りたいと思います。

