―まもなく秋季リーグが開幕します。現在の心境やチームの雰囲気は
気負うこともなく、もう始まるんだなというぐらいの気持ちです。チームの状態としては、ここ最近ずっと言ってるんですけど、春に比べれば確実にチーム力は上がっていますし、自信持っていいんじゃないかと言えるような状況にはなっています。
―慶大の監督に就任してワンシーズン終えた感想は
春は優勝を目指して、秋も当然そうなんですけど、早慶戦を優勝の可能性を残せた状態で迎えられたのは評価できるのではないかと。逆に、最初の連敗してしまったのは痛かったなというのも感じていて、また結果的に早稲田に目の前で優勝を決められて3位というのは非常に悔しかったのと、応援していただいた方々に申し訳ないという気持ちですね。
―監督業を通して社会人チームと慶大での違いはなんだと思うか
学生と社会人の違いは大きいのかなと思いますね。野球という部分では社会人も学生も変わらないと思うんですけど、社会人というのは1人1人がお金をもらって野球をしているので。親から援助してもらいながら、自分から辞めようと思わない限り4年間できるという保証がついてる学生野球に対し、社会人は1年1年が勝負で、尚且つサラリーをもらっているという責任感だとか背負う物の大きさなどは全然違うのかなとは思いますね。
―監督業をする上では何が違うと思いますか?
責任感の強さなどを学生から求めてもやっぱりなかなか分からないので。ただ、野球継続者にはプロや社会人の厳しさを早めに教えていかないと入ってから自分が苦労してしまうので、今慶應でやっていることが全てだと思わないようにして欲しいと思っています。今正しいと思っていても世の中に出れば7割8割が否定されることになるなと思うことが結構あったので。来年から一般就職する子たちにはあまり厳しく言えてないのが現状ですが。
―春季に出た秋季に向けての課題は
これはやっぱりバッテリー間のことですね。投手の無駄な四死球の多さ、球数の多さ。ランナー出しても粘るような部分も見せてはくれていたんですけど、捕手も含めてのバッテリーのミスが目立つ試合がけっこう多かったので。この夏のオープン戦はだいたいイメージ通りにやれているのかなという気はしますので、バッテリーの成長というか状態は良い方向にきていると思います。野手の方も、春はなかなか主軸に期待した選手の状態が上がらなかったので、あそこまでひどいことはないと思うので、現状では本当に良い形で開幕は迎えられるのかなと思っています。
―ワンシーズン終えて選手との信頼関係も
僕は信頼関係を築くことよりも、部員の性格を把握することと野球に対する取り組み方だとか、プレーしていく上でどういう選手かっていう見極めがだいぶできてきたのかなとは思います。
―リーグ目前にして、これまでのオープン戦や練習を見てきてMVPを選ぶとしたら
今は本当にみんな良いんですよ。強いて言うなら山口翔大(環3)が打撃の方ではよく目立っているのかなという気はします。ただ、僕は夏の間ずっと言っていたのは、下手な選手でも一生懸命やる姿を見せること。出し惜しみをしないで一生懸命やるっていう姿を見せるっていう意味では、森山渓太(商3)が大した実力があるわけではないんですけど、どんな時でも一生懸命やっています。そういった姿が今の慶應に足りないんじゃないかと。一生懸命やってる子も当然いるんですけどね。もっと、泥だらけになりながら、必死に追いかけてあと一本のところも簡単に諦めるんではなくてダメでもここいってやろう!とかなんとしてもバットに当ててそうすれば1点入るかもしれないとか。間違いなく今の慶大には私たちの時代よりも上手い選手が増えているけど、昔の方が泥臭いというか、下手を理解して一般受験や浪人して入ったりしている選手が多い慶應で法政や明治に勝とうと思った時に、やっぱり効率良く頭も体もうごかしていた。そこが今一番欠けている部分ではないのかなと思います。
―そんな森山選手が他の選手たちに影響を与えている?
彼をダシに使っているようで申し訳ないけれど、ベンチに入る入らないは別としてそういった選手を大事にしてあげたい。なんであいつがAチームの練習にいるのかっていうときに、ボールが行ったところに対しての自分の仕事をきっちりとこなしている。カバーリングに行くだとか、準備して1歩目のスタートを怠らないだとか、そういうことを本当に一生懸命やる選手なんだよ、というのを分からせるためにも必要な選手だとは思います。見ていて気分のいい選手を一人でも多く増やしたいな、と。
―投手陣の起用法については大久保監督の中で決まっていますか
起用法は作戦の一部だから言えないところもありますど、基本的には昨日の試合(9月5日・JR東日本)と今日の試合(9月6日・関東学院大)で投げたメンバー(三宮、加藤拓、亀井、小原大、加嶋)でいこうというのはありますね。
―その中心となっていく投手たちにこの夏技術的な変化は見られましたか
亀井(商2)がずっと安定したものを出してくれているなと思います。彼は(リリースの際の)右腕の位置を下げることで少し変則的にして特徴を出してみたらという話をして、それがうまいこと結果につながっているのかなという気がします。コントロールに不安というか、そこまでの自信がない選手が多いんですけど、ストライク先行でいけるときは投球内容もいいので、今挙がったメンツはやっぱりストライクが投げられる、という条件を満たしている選手ですね。ただその中でも加藤(拓也=政3)は、少々のボール球でも球の次元が違うというところで抑えてしまうというところはありますけど。
―1年生の中では太田投手(経1)がオープン戦での登板機会も多くなっています
それもストライクが投げられるというところを満たしているからですよね。使い勝手のいい選手でもありますし、リーグ戦のベンチに入るかはまだ分からないですけど、オープン戦をこなしていく中でストライクを投げられない選手は使えないのでね。
―下級生のときからチームを引っ張る存在であるである横尾選手(総4)、谷田選手(商4)、山本泰選手(環4)たちのこの秋に向けての姿勢や取り組みを見て
最終目標がプロというのはあるのでしょうけど、それより大事な今やっていることって何と考えたら、必然的に自分のことは二の次でチームの優勝のためにと考えるのが普通じゃないかなと僕は思いますよ。彼らに直接聞いてみないとわからないですけどね。
―先ほど、春は主軸の状態が上がらなかったとおっしゃっていましたが、そういった選手に何か指導は
何か気が付くことがあったときに言っているだけなので劇的な変化はないですけど、それらを本人たちが指導ととらえているのか、別に何も言われてませんととらえているのかそのあたりも本人に直接聞かないとわからないですね。だからこっちもあまり言いすぎることのないようにしています。
―オーダーについては固まっているのか、それとも調子を見極めてという形になるのか
(相手投手の)右左というのを考えたり、それといまファーストとレフトが余っている状況で、これが誰が状態良くて誰が悪いというのがはっきりしていれば迷わないんですけど、みんないいのでね。これが非常にもう悩ましい…嬉しい悩みですよ。春はわからない状態で使い回していたので。(春はレフトを守っていた)齋藤(商3)のケガがそれほど響いていないというか、カバーできている状態ではありますね。
―春の早慶戦後には4年生に有終の美を、ということを何度もおっしゃっていましたが、この秋も4年生の力でという気持ちが?
そうですね。本当は僕の任期とか先のことを考えると4年生より下に目がいって来年以降のことを考えた方が、と思いがちですけど、やっぱり4年生がまとまっているチームは良いチームだと思いますのでそういう意味でも頑張ってほしいなというのはあります。かといってそこに同情する気はまるっきりなくて、僕が必要だと思った戦力というか、部員と試合に臨みたいと思っています。
―プロ入りを期待されている選手がいるが、彼らに「プロに入る」ということでアドバイスなどはしているのか
プロに入れるか入れないかは決まっていないことで、やっぱりプロに行くのは簡単なことじゃないので。今やっていることより当然レベルが高いものを求められるし、当然相手のレベルも高くなる。そういうところに対応していかなければならないので、そういった意味で早め早めに気になるところなどは将来困らないために口出しはするようにしています。
―横尾選手や谷田選手といった人気選手もいる中で新たに注目してほしい選手は
注目してほしいというか、昔の慶應っぽさを残している選手、たとえば二浪して入った倉田直幸(法2)や一浪でAOで入った岩見雅紀(総2)みたいな、ちょっと遠回りをしてる選手なんかは、慶應らしさを残しているのかなと思います。
―他大学に気になっているチームや選手はいますか?
うーん。そりゃ、やっぱり早稲田には負けたくないですよね。まあ、特には気をつけたりなどはしてないです。
―そんな同じ東京六大学野球連盟の早稲田が今年全国優勝を果たしたが
今の六大学はたしかにいい選手が集まってきているというのもあるし、優勝の可能性もどこのチームにもあるような気がしますし、早稲田だって秋は春みたいにはたぶんいかないだろうし他の大学もきっと巻き返してくる。より一層またグチャグチャになる可能性はありますよね。だからどこを意識とかはあまり気にしていません。勝つことだけに集中していこうと思います。
―大久保監督の理想としているチーム像は
「阿吽の呼吸」ですね。監督が思ったことを選手も同じことを感じて実践してくれるような。
―理想に近づくために強く選手たちに言っていることは
準備を怠らない。最高の準備をする。
―試合中、頻繁にメモをとっている様子が見られますが?
あれはスコアをとっています。加えてそこから打順やプレーで気になったところなどをチェックして、ミーティングで話をするようにしています。
―慶大が優勝するために必要なものはなんだと思うか
強い気持ちしかないでしょう。あとは運。
―選手の気持ちを強くするために何か行っていることは
部員全員を集めて話すということはなかなかできないので、メール発信をしています。おすすめの映画を2本、歴史を感じるもの1本とあきらめない姿勢というか、そういう熱いものを考えさせられるもの1本を見たらということはしました。
―運を呼び込むためには
練習とあとは普段の行いですね。身の回りの整理整頓を含めてちょっとしたことに気が付いたり、ゴミが落ちてたら拾うとかね。僕はそういうことを現役の時はあまりできてなかったかな(笑)。監督になってからだいぶそういうこともやるようになりました。
―試合中、マウンドに行く場面が他の監督よりも多くあるように思いますが
そうですね。オープン戦ではマウンドへ行って、こういうときはこう攻めなさいといった作戦的なことを確認するケースが多いです。リーグ戦に入ったら相手の流れを少しでも断ち切りたいだとか、自分の中で嫌な予感がしたときに間を取るために行く場面もあります。オープン戦のときから行く理由は意識付けだとか考え方の確認をするためです。学生は基本的に一つ先のことは考えられても二つ三つ先のことまではなかなか考えられないことが多いので、これは社会人でもそうなんですけど。だからピンチの場面で迷わせないためにここはこうしなさいとか、ここは勝負だとかそのあたりを明確にするために行っています。これをリーグ戦だけでやろうとすると、選手がどうして出てきたんだろうとなるので、このタイミングで監督が来るんだなということをわかってもらうためにオープン戦でも同じようにマウンドへ行っています。
―新たな大学野球ファン獲得のために慶應のどういったところを見てほしいか
これは難しいんですよね。やっぱり学生に多く見に来てほしいとは切に思います。オールドファンもそうですけど、学生が見に来てなにかを感じてほしいです。「神宮っていいな」と思ったり、みんなで若き血や塾歌を歌ったりすることに何かを感じて、自分が大人になったときにまた神宮に行きたいなと思うようなサイクルができてほしいです。まあ、新たなファン獲得のためには、僕がどうというより、選手やケイスポの皆さんや学校側が何か考えてくれるといいなとは思います。
―夏に各地で野球教室を開いていた。今後慶應でプレーしたいと思っている球児たちに一言
これは入ってみないと良さとかは伝えられないことは多いんですけど、ただ慶應の野球部は本当にかっこいいよと伝えたいです。
―慶大ファンに向けて一言
勝っても負けても、選手たちをいっぱい応援してやってほしい。不平不満は監督に対していっぱい言ってくれ、と。(笑)今の時代は可哀想なんですけど、学生の選手でもやじられたりネット上で厳しいことを言われたりすることが多い。僕なんかはそういうの慣れているのでいくらでも批判も受け入れるので、学生を傷つけるようなことは避けたいですね。難しいんですけど。
―秋のリーグ戦に向けての抱負を
変わらず、優勝目指して頑張ります。あとはどんな展開になったとしても絶対にあきらめない姿勢で戦い抜く、それしかないです。
―お忙しい中、ありがとうございました!
取材:菅谷滉・千綿加華