【バスケ(男子)】<コラム⑤>小さな守備職人の数字には表れない働き――小原陸

バスケットボール

8月に始まったリーグ戦も、残るはあと1試合。慶大は現在11勝10敗で6位につけ、昇格入れ替え戦行きの可能性を十分に残し、まもなく運命の最終節を迎える。今回お届けするのは、主力の離脱が相次いだ前半戦は先発として、ベストメンバーが揃った後半戦はベンチの核として慶大の躍進に貢献した、小原陸(政4・慶應義塾志木)のコラム。ボール運びやディフェンスといった一見地味なプレーを黙々とこなし、チームを陰から支えた彼の仕事ぶりを紹介していく。

 

普段から大学バスケを観戦している方ならすでにご存知だとは思うが、リーグ戦の試合結果やスタッツは、学連のウェブサイトで誰でもチェックすることができる。そこには全試合、全選手の得点数や出場時間、アシストやリバウンド、ターンオーバーの数に至るまで事細かに記載されている。そこで慶大の試合のデータを見た時、真っ先に目が行くのはおそらく高得点を連発する髙田淳貴(環3・城東)や山﨑純(総3・土浦日大)、毎試合のようにダブルダブルを達成する澤近智也(環4・高知学芸)、あるいはオールラウンドな活躍が光る鳥羽陽介(環4・福大大濠)あたりだろうか。

その中で小原のスタッツに注目する人は、もしかすると多くはないのかもしれない。確かにシュート試投数が少ないこともあって、高得点を記録することは稀。アシスト数はチームトップだが、ポイントガードとしては格段に多いという訳ではない。では小原のチームへの貢献度は、前述した他の選手たちよりも劣っているのか?答えはもちろん“NO”である。

安定したボール運びでチームに落ち着きを与える

本人も「一番自信を持っている」と認めるように、小原の最大の魅力は何といっても粘り強いディフェンス。「相手に嫌なシュートを打たせること、スティールできなくても相手に浮いたパスをさせて時間を使わせることを意識している」との言葉通り、常に手足を動かしてプレッシャーを与える守りは、相手にとっては厄介そのもの。サイズで勝るマッチアップ相手を完全に封じ込めることも珍しくない。また小原のことを語る上で絶対に外せないのが、卓越したハンドリング能力だ。「小学校の頃から家の近くでボールをついていた」のが原点と語るドリブルワークは、それだけで会場を沸かすことができるレベル。相手にプレスを掛けられても簡単にセンターラインまでボールを運んでいく彼の存在が、慶大の試合運びに落ち着きを与えている。

一人で速攻に持ち込める脚力は慶大の大きな武器だ

そんな彼の“数字に表れない”働きが集約されたプレーが、第16節の駒大戦、2Q中盤にあった。駒大のオフェンスの場面で小原は、まずはボールを持つ相手のガードに強烈なプレッシャーを掛け、苦し紛れのパスを出させてターンオーバーを誘発する。そして味方がカットしたボールを受け取ると、サイドライン際を一気に駆け抜け、ディフェンス2人を置き去りに。ゴール下にビッグマンが待ち構えていたものの、果敢にフィニッシュまで持ち込んだ。惜しくもシュートは外れたものの、工藤翔平(政3・慶應義塾)がリバウンドを拾い、楽々得点に繋げている。このシーンで小原にはスティールも、得点も、アシストも記録されない。ただシュート失敗というスタッツが残るだけだ。それでもこの得点が、彼のディフェンスとチャンスメイクによってもたらされたのは、疑いようのない事実である。

早慶戦ではわずか10分間で9得点を挙げる活躍

「自分がフリーだったとしても、もう一回作り直して他の選手がフリーで気持ちよく打てるように、というのを考えてやっている」と語るように、攻撃においても利他的なマインドを持ち合わせている。しかしその中でも、今季の早慶戦、あるいは5節・13節の国士大戦など、4Qの勝負所での貴重なシュートを決めているのは見逃せない。小原自身は「(メンタルは)むしろ強くないです」と謙遜するものの、それでも「もっとアタックするぞ、という気持ちの部分は一番成長出来たと思う」と出番が増えた中で確かな自信を掴んでいる。その背景にあるのは、高校からの同期である吉敷秀太(政4・慶應義塾志木)の活躍だ。「リバウンドやルーズボールなどチームとして体現しないといけないことを、試合に出たら必ずやってくれる」同僚に刺激を受け、今ではその吉敷とともにベンチに欠かせない選手の一人に成長した。

クラッチタイムの勝負強さにも磨きがかかる

11月3日に控えるリーグの最終戦について、小原は「今までの集大成として、培ってきたものをすべて出し切って、相手を圧倒して勝ちたい」と意気込む。そのリーグ戦がどんな結末を迎えるのかは現段階では分かりようがないが、最終節の結果がどうであれ、「悪かったら下の入れ替え戦もあるかな」という開幕前の小原の不安を考えれば、慶大が予想を遥かに上回る躍進を見せたことに変わりはない。その中心となったのは、鳥羽や澤近、髙田といったエース級の選手たちであることは間違いないだろう。しかしその陰には、“数字に残らない”仕事をこなす、小原をはじめとするロールプレーヤーの働きがあったことも、どうか心に留めておいて頂きたい。

 

(記事:徳吉勇斗)

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