24年度に引退を迎えた4年生を特集する「Last message~4年間の軌跡~」。第34回となる今回は、アメフト部の森川慧(法4・慶應)。選手ではなく副将・オフェンスコーディネーターとして、チームの攻撃をフィールド外からバックアップ。彼の組む戦術は、今年のUNICORNSに必要不可欠なピースとなった。誰よりもアメフトという競技を愛する森川の競技人生に迫る。
小学校1年生でフラッグフットボールに出会ったところから、森川のアメフト人生は始まる。慶應高では清原正吾らと共にアメフト部で活動。この頃にはすでに森川はアメフトの魅力に取り憑かれていたという。ならば大学での入部も既定路線かと思われたが、実は違うのだという。WRの選手としては自らの身体能力にも限界を感じていたといい、競技への関わり方自体を悩んだという。そんな時に出会ったのが、大学でコーチを務めていたDavid氏。彼と相談する中で、「プレイコーラーができるのなら」という思い、そしてそれに対して「It’s up to you(君次第だ)」という答えをもらったこと。これこそが、彼が大学で裏方としてUNICORNSに入るきっかけとなった決定打だった。
1年生ではWRのポジションコーチから裏方キャリアをスタート。自身の経験があるポジションとはいえ、コーチングに関しては自分で一から調べるという手探り状態から始動した。新人ではあるが、コーチという立場でもあるため、時には先輩に対して厳しいことを言わざるを得ない場面もあったという森川。彼が決めていたのは「先輩後輩で言うことを変えない」ことだった。選手を最も間近で見ている立場として、性格は考慮しつつも、全員に平等にアドバイスをおこなった。トレーニングに関しても、「やってもいない奴から言われるのは腹が立つので、やった上で言える存在でありたかった」と語る通り、選手でない立場でありながらキツさや苦しみを共有することで、励ます役目も果たしていた。

時に厳しく、しかし学生ならではの視点で指導した
彼に大きな試練が降りかかったのは2年次。David氏が突如として辞任してしまったのである。オフェンスを引っ張る人物が不在となる窮地に立たされた。さらに追い討ちをかけた、部の不祥事による活動停止。練習もできない、練習できても舵取りがいないというダブルパンチが、彼の4年間では最も苦しい時期だったという。森川は学生コーチという肩書きに変更となり、David氏の後釜として、オフェンスを引っ張る役目に向けて勉強を重ねる日々だった。
4年に進級した彼は、監督やコーチからの勧めで、念願のオフェンスコーディネーターの座を射止める事になる。現在、この役割を学生が務める大学はほとんどなく、極めて異質な存在。しかし彼は、学生がやるべき仕事だと思っているという。「一緒に選手と過ごす中でだったり、同じ立場だからこそ気づくところもある。学生がやる価値はある」といい、自らの仕事に誇りを持ってラストイヤーに臨んだ。

コーチらとも意思疎通をとりながら、作戦を組み立てる
久しぶりに春シーズンから練習や試合を行うことができた今シーズン、彼はアメフトの楽しさをチームに伝えることを重視した。アメフトが最も好きなのは森川であることは部員からも周知の事実だったとはいえ、それをチームメイトに伝え、彼らにも自分と同じくらいアメフトに熱意を持ってもらうこと。それが勝利への道であると信じ、ブレずに指導を行っていく。
春から夏にかけては、秋シーズンに向けての戦力の見極めをメインにしていたという森川。その中には、パスを一切使わなかった試合などもある。時には「なぜこのような試合を?」と疑義を呈されることもあったというが、全ては秋で勝つため、その下準備に過ぎなかった。彼の初志貫徹の想いが必ず秋には報われると信じ、部員たちは成長していった。

全ては秋のため。「急がば回れ」の精神で
そして迎えた秋シーズン。春に固めた屈指の実力派パスユニットを引っ提げた慶大は快進撃を見せる。前年なんとか降格戦を回避したところから、番狂わせを2度演じて関東3位に滑り込み、全国大会へ出場した。選手はもちろんだが、森川も本気のラストイヤー。1試合ごとに30を超えるゲームプランを作成し、さらに状況に応じて勝つための最善の選択をとり続けた。選手と対等な位置でゲームを作れるという風通しの良さは、ここに結実したといっていいだろう。
全国大会では関学大に敗れるも、森川は「負けた要因が、フットボールが劣っているのではなく、僕らがミスをしたこと。プランニングも負けていないと思ったし、勝負ができる土俵にあると思った」と振り返る。現に、絶対王者と目された関学大は、準決勝では関東王者・法大に敗れた。西高東低という評され方をするアメフトだが、慶大の、さらには関東の実力と可能性を実感し、彼のラストイヤーは幕を閉じた。

彼が作る作戦の数々がチームメイトの快進撃を支えた
今後もアメフトにコーチ業として関わる森川。裏方としてあとを継ぐ後輩たちに対しては、アメフトへの熱意が自分と同じくらいあると感じているという。「学生コーチという、自分はアメフトができないのにアメフトに関わるという謎のポジションを選んでくれているのはすごいこと。その気持ちは僕が接した中で嘘と思う子はいない」といい、UNICORNSの将来に希望を抱いている。一方の選手に対しては「勝利を求める中で楽しさから離れてほしくない」という思いを持つ。これもやはり、アメフトを誰よりも愛した森川だからこそ出る言葉だろう。今年彼が残したあまりに大きな財産を、後輩たちがいかにうまく使っていくか、注目だ。
(記事:東 九龍)

日本一の夢は頼れる後輩に託し、次のステージへ