【アメフト】「戦力外」から、勝利の立役者へ ― 覚悟の果てに辿り着いた価値/4年生卒業企画「光るとき」No.18 黒木哲平(アメリカンフットボール部)

アメフト

25年度に卒業を迎える4年生を特集する特別企画「光るとき」。第18回となる今回は、アメリカンフットボール部のSB・黒木哲平(経4・大宮開成)。昨年、UNICORNSのレギュラーシーズン唯一の勝利となった桜美林大戦。試合の流れを大きく引き寄せる2つのタッチダウンを挙げた黒木は、関東学生アメリカンフットボール連盟1部リーグTOP8第4プレイヤーオブザウィークに選出され、名実ともに勝利の立役者となった。だが、その鮮やかな活躍の裏には、「戦力外」とも言える苦しい時期があった。思うように出場機会を得られず、もがき続けた日々。どん底の状況からいかにしてはい上がったのか――その歩みに迫る。

衝撃の出会い

幼稚園から高校までサッカーに打ち込んできた黒木。そんな彼がアメフトと出会ったのは、高校1年時の短期留学中のことだった。ホストファミリーに連れられて訪れたアメフトの試合で、彼は自分と同年代の選手たちの体格やスピード感を目の当たりにして、圧倒的な衝撃を受けたという。そして受験戦争を経て、小学生の頃から漠然と目標に掲げていた慶大へ進学。多くの選択肢の中で芽生えたのは、「4年間を懸けて本気で挑戦したい」という思いだった。かつて心を奪われたアメフト。その舞台として選んだのがUNICORNSだった。

突きつけられた評価
黒木のアメフト人生は、決して平坦なものではなかった。大宮開成高校時代には、サッカー部のキャプテンを務めていた彼は、自身の運動能力に一定の自信を持っていた。しかし、アメフト特有の戦術の複雑さに、思うように順応できず、もがき苦しむ日々が続いた。それだけではない。伸び悩む現状に対し、同期から退部や学生コーチへの転向を勧められることもあった。当時を振り返り、彼はその出来事を「戦力外通告のようなものだった」と語る。
誰よりも近くで

そんな状況でも、黒木を支え続けたのは母親の存在だった。毎日仕事をこなしながらも朝4時30分に起き、身体づくりを考え抜いた食事を用意する。練習後には何枚もある泥だらけの練習着を洗い、疲れた様子を見せることなく次の日を迎えさせた。

出場機会のない試合にも足を運び、スタンドから見守り続ける。その背中は、どんな言葉よりも大きな支えだったという。黒木にとって母は、「誰よりも近くで支えてくれた、感謝しかない存在」。苦しい時期を乗り越える原動力のそばには、いつも変わらぬ母の姿があった。

ゼロからの再構築 

黒木にとって最大の転機となったのは、4年春の9泊10日の合宿だった。この年の初旬、QB・山岡葵竜(政4・佼成学園)から、WRからSBへのコンバートを告げられる。黒木は当時を振り返り、「チームとしてSBに求められていることが明確に分かった10日間だった。同時に、WRとはまったく別のポジションだと実感させられた期間でもあった」と語る。ボールを捕ることが主な役割であるWRとは異なり、SBはブロックや多様な役割を担い、オフェンス全体を理解していなければ務まらないポジションだという。

このコンバートは、彼の意識にも大きな変化をもたらした。前述の「戦力外通告」を経験した以降、黒木は反骨心を持って、「自分」のために一生懸命練習を重ねてきたが、「自分」よりも「人の活躍を優先する」ようになったのもこの時期だった。RB・山内啓耀(経4・慶應)が走りやすいように道を作り、WR・久保宙(経4・慶應)がキャッチしやすい状況を生み、QB・山岡が試合を展開しやすいように動く。黒木は「自己犠牲」をいとわないプレーを大切にするようになった。そのため、昨年のチームとしてレギュラーシーズンで唯一勝利した第4節の桜美林戦で、2TDを挙げプレイヤーオブザウィークに選ばれたが、「個人よりもチームが勝てたことが何より嬉しかった」と語る。
「ニコイチ」という信頼
また、黒木を語る上で絶対に欠かせない存在が、猪ノ原浩巨(経4・慶應)である。周囲からは「ニコイチ」と称され、キャンパスでもアメフト部でも常に隣にいる存在だ。誰よりも長い時間を共にしてきた、まさに「パートナー」だ。その関係性を象徴するのが、青学大との入れ替え戦である。絶体絶命の局面でタッチダウンを決めたのは猪ノ原だった。だが実は、その場面はローテーション上では黒木の番だったという。それでも黒木は、「ここぞという場面で、SBとしてのリーダーでもあり、一番頼りがいのある猪ノ原に託したいと思った」と振り返る。自ら一歩引き、親友を送り出した。そして猪ノ原がエンドゾーンに飛び込んだ瞬間、黒木の胸には何よりも大きな喜びが込み上げた。「SBとしての価値」にこだわり続けてきた黒木にとって、それは自分が決める以上に意味のある得点だったのかもしれない。信頼と覚悟の先にあった一瞬。親友とともに勝ち取ったそのタッチダウンは、黒木の大学生活を象徴する、最高の瞬間となった。

親友・猪ノ原に託したTD

辿り着いた価値
黒木が大学アメフトに挑戦して得たものは多くある。だが、その中でも特に大きかったのが、「戦力外」を経験したからこそ得た学びである。闇雲に努力を重ねるだけでは届かない。自分に何が足りないのかを分析し、正しい方向へと努力を積み上げていくことの重要性。そして、部員それぞれが異なる背景や入部動機を持ちながらも、ひとつの目標に向かって同じ方向を向くことの尊さ。個の力と組織の力。その両方を知ったことは、彼にとって何よりの財産だろう。どん底も、歓喜も知る男は、もう簡単には折れない。大学で培った経験と覚悟を胸に、次のステージでも黒木らしく挑み続けてほしい。
(取材、記事:水野翔馬)
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