新年度特集第2弾は、今季より慶大蹴球部の監督に就任した和田康二監督へのインタビュー。和田監督は慶大蹴球部での現役時代、当時はまだ大学選手権の常連校ではなかったチームをSOとして大学日本一へ導いた。その翌年は主将も務め、まさにタイガー軍団を強豪へ押し上げた立役者だ。ここ数年、悔しい結果が続く慶大に再び黄金期をもたらすために。和田監督の理想とするラグビーや、慶大蹴球部の伝統に対する考えなどを伺った。
——監督就任となられた経緯をお願いします
今回GMという制度を導入して、そのGMの渡瀬さんから12月上旬くらいに連絡があり、何の話かなと思ってお会いしたら監督をやらないかという話でした。びっくりしたけれど、考えて、家族や会社とも調整をして1月20日あたりに最終的に決断をしました。
——以前からバックスコーチとして慶大蹴球部を指導されていましたが、監督になられて感じる違いは
卒業してからコーチをやっていたときは、会社のない週末が中心で、さらに仕事や家族の用事を優先しなければいけないときもありました。本当の意味でのコーチングは、毎日グラウンドに足を運んで、選手とコミュニケーションを取れる状態でないとできないと思います。今はすごく楽しいというか、全体練習が始まってまだ2週間くらいですけど、選手も意識高く、こちらとしても高い意識を持ってやっています。改善しているところが練習中に見られるし、次の練習に活かせるので、土日だけ来て一週間何をやっていたのかよく分からないなかで見るのとは違う。土日の試合だけを見てでは、じゃあ平日はどういう練習をするのかというところまではなかなか落とし込めないので。そこから比較すると、毎日グラウンドに立てることはやりやすいです。
——監督になられてから初めてのミーティングでは選手にどのようなことを伝えたのか
一つは、114年間の歴史の重みをちゃんと感じること。たった一人の無責任な行動で部の歴史は終わってしまうかもしれない。決して自分たちの手で部の歴史を終わらせないようにしようというのが一点目。
もう一つは、最終的にはレギュラー15人とリザーブ7人の22人だけが登録メンバーなんだと。部員数は150人以上と非常に多いので、一人一人がどうやって部に貢献するのかを考えてほしいと言いました。もちろん試合に出て活躍することは当たり前だしベストなことだけど、最終的に出られる人数は限られる中で、どうやってこのチームに貢献するのか。そこを強調した上で、その後に個人面談を全員として、みんなにそれを聞いたという感じです。
——選手たちの反応はどうでしたか
それは部員たちそれぞれが日頃から考えていることですし、試合に出て活躍することを目指している。それでも15のポジションに対し部員が150人いるわけだから、平均すると一つのポジションを10人で争っているわけです。極端な話で言えば、10軍の選手はどうやってチームに貢献できるのかということを改めて考え直してもらって。反応としては、それは当然でしょと言いながらも考え直した選手もいたんじゃないかな。監督、コーチ、OBの部ではなくて、学生が主役なので、そのことを意識してほしいということも強調して言いました。
——学生主体というのは田中真一前監督も掲げていたことでした
学生が主役というのは誰が監督であっても変わらない事実だと思うんですね。慶應の体育会は、今に始まった話でなく文武両道で、まずは学業優先の中での体育会なので、100%の環境や100%の人材を常に獲得できるわけではない。その中でどうすればいいかを突き詰めていくと、一人一人の主体性をいかに高めるかということは、どの監督でもどの時代でもどの学校でも変わらないことだと思います。
——昨年までの結果について
昨年、一昨年は対抗戦5位、大学選手権も年内に敗退してしまっていて、結果としては満足できるものじゃないことは共通の認識だと思います。僕が大学2年生だった1998年のときからずっと大学選手権には出続けているけれど、僕が大学に入って一年目のときは大学選手権に出られなかったんです。あまり強いチームじゃなかったんですね。で、僕が大学2年のときから昨年まで15年連続で出場できている。大学選手権出場というのは当たり前のように聞こえるかもしれないけど、僕が1年のときは出ていないし、その前だって何年も連続で出場できなかった時代もある。昨年は残念な結果に終わっているけれども、僕は慶應のラグビーはそういった数年を含めても、決せて悲観すべきようなチームじゃないと思っています。慶應はそこまで行って当たり前と思われていることが昔は全然当たり前じゃなかったし、それが当たり前だと思える文化にはもうなっている。僕が監督になっても、まず大学選手権に必ず行くことは最低限の義務だし、その上で部員たちの夢も大学日本一になることが最終目標で、その他に早慶戦に勝ちたい、明治に勝ちたいというのもある。そういったところを目指していきたいです。
——今年の学生幹部についてはどのように決定を
僕が監督の話を受けたのが1月の下旬なんですけど、その前から既に新4年生を中心に幹部を決めるという話があったようで、年末年始返上で議論をして自分たちで幹部を決めたということでした。僕は新任監督なので、誰が主将がいいかと問われても正直分からないので。ただ僕としては誰が主将でもそんなに変わることはなくて、4年生が自分たちで決めたリーダーなのであれば、自分たちでそのリーダーを男にすればいい。最初から完璧な人なんていないだろうし、上手くサポートしてあげればいいんじゃないかなと思っています。
——宮川主将は10番で主将と、和田監督ご自身の現役時代と重なる部分もありますが
先週から彼のリーダーシップを見ているけれど、非常に男らしいというか、グラウンドでも声を張り上げて先頭になって全てのものに取り組んでいます。ポジションが同じなのはたまたまですが、自分が何かアドバイスできることがあればしていきたいです。彼と僕で同じようなプレースタイルの面もあれば違う面もあるだろうし、個性を出してくれればと思います。ポジションも10番となっているけど、非常に才能豊かな選手なので10番にこだわらずに適正なポジションを見定めたいと思っています。
——ポジションに関してはまだどこも確定していないのですか
全ての選手にも言えることで、今自分がやっているポジションがおそらくベストなんですけど、もしかしたら違った可能性もあるかもしれない。15個ポジションがあって、ただやったことないだけとかで、適正は違うところにあるかもしれないので、僕はその辺りは意識してチャレンジさせたいと思っています。
——FWは昨年から多くの選手が抜けてしまったが
セットプレーはFWのプレーですし、彼らがそこできっちりボールを獲得してくれないと次のプレーにつながらないので、ラグビーの中でもFWは極めて重要です。メンバーが抜けてしまったことは重々認識しているので、そこは一番強化をしなければならない。特に4番、5番は今年のチームの出来を左右するポジションだと思っているので、面談のときもその話をしましたし、今後の練習でも中心的に強化していこうと思います。
——BKは新3年の浦野選手、川原選手、服部選手など楽しみな選手も多いですが
BKは一言で言うと才能豊かな選手がとっても多いなと。実績もありますし、練習を見ていてもスピードもあって、上手い選手もたくさんいて嬉しい悩みですね。争いも激化しているし、今後も激化すると思うので、切磋琢磨してレベルアップしてくれたらいいなと。他の大学に対する強みはBKの決定力だと思うので、そこは意識したチーム作りをしていこうと思います。
——昨年は対抗戦のレベルから離れていた選手もいましたが、そうした経験のギャップに対するケアについてはどうお考えですか
4月28日から6月の最終週まで、毎週試合があります。交流戦、春季大会など合わせると10試合近くあって、大学トップレベルのチームとやる試合も見えています。その後は夏合宿もありますし、そうしたところで強豪校との経験値は高められると思います。
——今シーズン、徹底していきたいことは
ラグビーはどんどんフィジカルが重要になってきていて、グラウンドでの練習も重要ですけど、食事やウエイトや休養だったり、24時間365日の積み重ね全てが、一つとしてラグビーとつながってないことがない状況になっちゃっているんですよね。昔はもう少し食事にしたってウエイトにしたって科学的じゃなかったし、お酒を飲んでる人もたくさんいました。でも今の大学のトップレベルのチームはプロ意識が本当に高くて、食事から練習から休養までの全てがラグビーとリンクしている。
帝京大学に話をきくと、部員全員が合宿所に泊まって、朝昼晩に何を食べさせるかまで管理されている。慶應の合宿所は最大で58人しか泊まれないんですね。160人いれば100人は通ってきています。朝や夜に何を食べているかは分からないわけですよ。だから、究極の意味では彼らの主体性に賭けるしかない。もちろん部でお金をかけてどこかに合宿所を建てたり、どこかの食堂と提携するとかはできるかもしれませんが、じゃあそれで勝てるかというと、そうじゃない。しっかり管理されて強くなっている選手がいて、さらにとりたい高校生をちゃんと大学に入学させることができるチームに対し、慶應はAO入試や指定校推薦もあるけれど受験してくださいとまでしか言えないわけですよ。受かるかどうかは分からない。そういう環境の違いでは同じことをやっていても多分勝てない。プロ的な管理をされたチームを凌駕するために慶應も管理をするのでは無理なので、一人一人が自主性を持ってやってくれないと絶対に勝てないんです。
これはもう真理であり、慶應のラグビー部だけの話じゃないわけですよ。一人一人のラグビーに対する意識の高さが重要で、「朝ご飯食べないで、夜はファストフードでいいや」を365日積み重ねたチームとプロ的な管理をされたチームでは大きな差が出てしまう。帝京大学と同じような環境は無理ななか、まずは一人一人の意識の差で勝つしかない。でも帝京大学も、環境は提供しているけれども一人一人がそれを理解して自主的にやっていることが彼らの強さでもあるので、簡単には追いつけないでしょうけど、少なくともそういう意識でやっていかないと。
——一人一人が常にラグビーを意識した生活行動を心がけないといけないんですね
ラグビーはそういうスポーツになっちゃったんですね。グラウンドでどんな練習をするかというだけのスポーツじゃなくて、毎日毎日の食事をして、休んで、その一環としてグラウンドで練習をして、終わった後はケアをして、トレーニングをして、また何か食事をして、寝る、ということの積み重ねで体も大きくなるし、体が大きくなっても走れるフィジカルになれるし、という世界になってきている。オフがむしろ一番大切ですね。そのときにしかできないこともあるし。学生は大変かもしれないけれど、365日ラグビーのことを考えていてもらうと。休むのも練習の一つなので休んでいるんだと。うちの部員が今の環境で受け身でいたら絶対に勝てないですね。
——和田監督のラグビー理想像は
ラグビーは15人が意思統一しなければいけない。言うは簡単なんだけど、実際はこんなに大変なことはない。逆に意思統一された15人であれば、個々人のポテンシャルでは劣る相手にも勝てるスポーツであると思います。15人が意思統一されたチームというのが理想ですね。
——その意思統一のためには、どのように
物事はシンプルな方がいいので、シンプルな規律、シンプルな戦い方を。本質的なものは突き詰めればシンプルになるはずで、やっぱり15人の意思をまとめるのは簡単じゃない。たくさんのことをやろうとしても無理なので、「Keep It Simple」ということで。
——和田監督の指導のモットーは
僕は監督ですけど、あくまで主役は学生ですし、言ってしまえば一大学の課外活動です。そういうわけなので、監督が全面的に出る必要もないし目立つ必要もない。どんどん主役である学生に目立ってもらいたい。試合に勝つことが彼らの幸せにつながるので、そのための努力をサポートしていきたいということですね。主役である学生が強くなりたいと思って、明るく前向きに厳しい練習を率先してやれるように。とにかく彼らに幸せになってほしいと思います。慶應でラグビーやってよかったなと思って卒業して、その仲間といつでも楽しくお酒が飲めて、そのときに結果が伴っていたら最高と。
——和田監督は慶大蹴球部の伝統についてどうお考えですか
ご存知の通り日本のラグビーのルーツです。これは意識すべきことだし、誇るべきことだし、まずはその歴史を継続させなければいけないですね。あとこれは部員たちとも話していることですが、慶應のラグビー部のカルチャーって何だろうねと。慶應ラグビー部はどうありたいのか。それを再定義したいと思っています。究極的に言えばもちろん試合に勝つことが目標ですが、僕は慶應ラグビー部というのはかっこよくあってほしいと思っています。部員もかっこよくあってほしい。そのかっこいいって何だろう、どうしたらかっこいいんだろう。そういうところをもう一度みんなで議論して、部員一人一人が毎日の行動なり練習なりグラウンド外での立ち振る舞い含めて、慶應ラグビーかっこいい、慶應ラグビー部員かっこいいと思われるようなチーム作りをしていきたいと思っています。114年の歴史は過去の人たちの積み重ねですが、さらに10年後も20年後もあるいは100年後にも慶應ラグビー部はかっこいい存在であってほしいと思っていて、そのために部員一人一人はどうあるべきなのか、どういうラグビーを目指すべきなのかを部員と議論していきたいと思います。
——3月16日に部内マッチを行うそうですが、現在のチームの雰囲気は(この取材は3月8日に行いました)
とってもいいんじゃないかなと思います。監督の話が決まって、一番最初に部内マッチをやりたいと幹部に相談しました。ビデオでは昨年までの試合を見ているけど、やっぱり自分の目でそれぞれの選手がどういう能力をもっているか見たいので。あとは人数が多い分、練習のためにチームを分けないといけないので、その手っ取り早い方法が部内マッチで選手を見ることだと思いました。学生も了解してくれて、この日にやろうと早々に打ち出したので、部員も今はそれに向けてモチベーションも高いですし、とってもいい雰囲気だと思います。
——現段階でキーマンを挙げるとすれば
もちろん全員。今年は全員が一体感を持って勝つというイメージでいきたいので。全員が主役だし、全員がこの部を作っている。
——春のシーズンが始まりますが
あくまで僕らの目標は秋から始まる対抗戦で上位に入り、大学選手権のベスト4に最低限出場することなので、常にその目標をぶらさずに、春の試合も強化の一つの手段として位置づけようと思っています。もちろん一つ一つの試合でのターゲットは出てくると思いますが、春のどの試合にピークを持っていこうということはないです。早稲田とやるのなら選手も自然と気持ちが入るかもしれませんが、こちらとしては、春はそのときのチームの力を出してくれればいいのかなと。秋冬に結果を出すためのプロセスとして、対戦相手を見るというよりは自分たちの出来を見る。そういう春にしたいと思います。
——監督一年目に懸ける思いは
任期は二年ですが、二年かけて結果を出せばいいとはさらさら思っていません。今年のチームの4年生は来年には卒業してしまうわけで、一年一年が勝負だと思っているので、今年で結果を出しにいきたいです。
——最後に、webをご覧の方にメッセージをお願いします
いつもラグビー部をご支援頂きありがとうございます。秋から始まるシーズンで皆様の心を打つ試合ができるよう、主役である学生とともに取り組んでいきたいと思いますので、ご声援よろしくお願いします。
——お忙しいなか、ありがとうございました!
(取材・大貫 心明)
和田康二(わだ・こうじ)
慶大蹴球部が1999~2000年シーズンに創部100周年で大学日本一となった時の主力メンバーで、翌シーズンに主将を務めた。今季より慶大蹴球部の監督に就任。現役時代のポジションはSO。
※掲載が遅れてしまい申し訳ありません。この場を借りてお詫び致します。
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