【端艇】〈コラム〉村上廉太郎~「変化」を体現する「不撓な主将」~

ボート

「不撓な主将」と称される村上廉太郎

「不撓な主将」。131期端艇部の主将を務める村上廉太郎(政4・慶應志木)は後輩からこう称される。「不撓」とは「心がかたく、困難に屈しないこと」という意味だ。まさに新型コロナウイルスの感染拡大という大きな困難を乗り越え、今年度端艇部をまとめあげてきた村上にふさわしい表現だ。大学からボートを始め、多くの苦難を乗り越えながらも慶大端艇部で着実にステップアップしてきた村上。そんな彼の熱い思いをお届けする。

全日本選手権でメダルを獲得(写真左)

「変化」

「変化を体現する者」。村上廉太郎主将をインタビューした際に感じた印象だ。

慶大端艇部131期が今シーズン掲げたスローガン「変化」。早慶戦は131期が入部した年から3年連続での敗北、インカレや全日本でも優勝から遠ざかってしまっている。そんな状況で「一皮むけるために、今までの考え方をもう一度見直して、抜本的にチームを変えていこう」。要するに「変化」するために、貪欲に「挑戦」し続ける、そんな厳しい道を選んだということだ。「変化」することがどれだけ難しく、「挑戦」することにどれだけ勇気がいるか。特に100年を超える伝統ある慶大端艇部で、それを成し遂げることがいかに大変かは容易に想像がつくことだろう。

ただ、「変化」を掲げる部の主将となった村上のボート人生を振り返ってみると、まさに村上自身が「変化」の体現者であった。

 

慶大端艇部に入部

村上は中学でバスケと出会い、慶應志木高時代も含めて6年間バスケ部に所属していた。しかし大学入学時には「体育会で続けるほど実力はないなって自分で見切りがついていた」と競技は続けずに「サークルで遊びほうける」つもりだったという。そんな中、高校の同級生だった古谷高章(商4・慶應志木)やバスケ部から端艇部に入部した先輩などに誘われて早慶戦を見に行くことに。そこで見た慶大クルーのレースに感動した村上。「俺も隅田川で自分が乗って早稲田に勝ちたい。もう一回スポーツで活躍したい」という思いが募り入部を決意した。

 

ターニングポイント

やはり大学から始めたスポーツ。初めから主力として活躍できたわけではなかった。有酸素能力には自信があったという村上だったが、エルゴのスコアもそこまで高くなく、1年生の一年間は試合にもあまり出られなかったという。しかし、2年生に上がる直前、村上のボート人生に最初のターニングポイントが訪れる。冬の練習で辛い思いをしてきた村上は早慶戦合宿の直前に行われる「エルゴの20分測定に懸けよう」と自ら頑張る目標を設定。そこに向けて努力した結果、見事エルゴのタイムを大幅に伸ばすことができたという。「そこを境にいい波に乗っていった」という村上は、2年時はシーズン中も大会に出場し自信をつけていった。

 

4年ぶりに第二エイトでの勝利となり笑顔を見せる(写真中央)

成果

そして3年生になった昨シーズンの村上は慶大端艇部の主力として大きな成果を残した。

まずは早慶戦。第二エイトで出場した村上は慶大に4年ぶりの第二エイト勝利をもたらした。

続いて行われた全日本選手権大会。社会人も出場する激戦必至のこの大会に男子舵手なしペアで出場した村上は、大学から始めたという経験の差を感じさせない実力を発揮し堂々の3位入賞。見事に全日本でメダルを獲得した。

そして村上自身初めて対校エイトの一員として臨んだインカレ。「練習の段階で優勝できると思っていた」という完成度の高いクルーは惜しくも決勝を逃してしまったものの、順位決定戦では4年生の「“意地”を肌身で感じ」ながら「心に残るような最高のレース」を展開し、5位入賞となった。

 

一個上の代の”意地”を感じたレース

131期主将に

近年は高校時代からボートを続けている附属高出身者が主将を務めていた慶大端艇部。そんな中主将に任命されたのは、インカレで唯一対校エイトに乗った3年生であり、実力的にも申し分ない村上だった。

村上は理想の主将像を2つ挙げてくれた。1つは「自分がチームの誰よりも前に立ち、誰よりも練習をしっかりやる」こと。2つ目は規模の大きい部活だからこそ遠い存在にならないように「一人一人とコミュニケーションがとれる」ようにすること。以上の2点だ。そして主将になるにあたって「今までお世話になった先輩方に良い結果で恩返し、喜ばせられるようにこのチームを勝てるチームに変えていきたい」と決意を固めた。

 

早慶戦勝利に向け順調だった(写真中央)

早慶戦中止

131期の代がスタートし、早慶戦での勝利に向けて着実に歩みを進めていた慶大端艇部であったが、開催の数週間前、無情にも早慶戦中止を告げられる。村上にとっては端艇部に入ったきっかけでもあり、今年度の大きな目標の一つでもあった早慶戦。さらに、活動自粛になる直前の練習では対校エイトにまとまりが出始め、かなり勢いがある状態だったというのだから、なおさらショックだったことだろう。しかし、中止が決まった直後、村上は次のように心境を語った。「正直結構悲しいですけど、インカレや全日本の決勝で早稲田にしっかり白黒つけられたらと思って今はそんなに悲観的にならず、次の大会に向けて頑張ろうっていう気持ちがありますね」。

 

悔しさを押し殺し、今年のもう一つの目標であるインカレでの優勝に向けて切り替える強さ。そして先の見えない自粛期間の中でも部員の「身体作りへの意識」が変化したり、「一人一人の漕力の上達が見られ」たり、とメダルを取っているチームとの地力の差を着実に埋めていく。「慶應全体として大きく変わる」=『変化』するために。そしてその先にある「今までに見たことがないような慶應、結果を残す」ために。

 

早慶戦に向けストロークに乗る朝日と6番に乗る村上

「誰よりもストイックで誰よりも部員想いな人」

部員にとって村上は一体どんな主将なのか。主務の桒原侃生(政4・慶應志木)に尋ねると「誰よりもストイックで誰よりも部員思い想いな人」と返ってきた。また、昨年のインカレから同じクルーとして闘ってきた朝日捷太(経3・慶應義塾)は「実力面でも常に先頭に立ってみんなを引っ張っている。人としては常に高い志を持っていて、気配りができてチームからの信頼は厚い。いろいろと気にかけてくれて本当に『兄』みたいな存在」と語る。まさに村上は自らが挙げた理想の主将像を体現できている主将なのだ。

 

また、村上にボート競技の面白さを尋ねると2つ答えてくれた。

一つは「真摯に向き合っていれば伸びるスポーツ」であり、「頑張った分がタイムや成果に出てくる」スポーツであること。もう一つは「究極のチームスポーツ」であること。これは、いろんな考えやイメージを持っている選手がクルーを構成しぶつかり合いながらも、「同じ方向を向いたときの楽しさだったり、艇速が出たときの喜びだったりは何物にも代えられない」という。

 

村上は自らの強みを「努力することや真摯に向き合うこと」だという。さらに、インカレで同じクルーである古谷も「ボートを始めてから四年間地道に努力を続けていて、4年になってからも成長している」と語ってくれた。

 

ボート競技に対して誰よりも真摯に向き合い、楽しみ、愚直に努力する。そんな姿を先頭で見せ続けチームを率いる。なんてかっこいい主将だろうか。

 

昨年のインカレで勝利しガッツポーズをする村上

インカレ優勝へ

インカレ直前に行われた全日本選手権では残念ながら準決勝敗退となってしまった。しかし、「全力でやる、向かっていくっていうようなフレッシュさや素直さ」があるという対校エイトは全日本からの2週間でも大きく成長したに違いない。ここまで数々の困難を乗り越えて、限られた期間でも「変化」し続けた村上はストロークとして背中で、そして水中でクルーを引っ張ってくれることだろう。また、「最後の大会は恩返しも込めて村上主将を勝たせたいっていう思いが人一倍強い」と6番に乗る朝日を筆頭にクルーの士気も高まっている。

 

そして最後にインカレへの意気込みを尋ねた。

「4年間の中で昨年のインカレでは目標としていた優勝にまで先輩方と一緒にいけなかったっていう悔しさ。自分が入部した理由である早慶戦がなくなった悔しさ。自粛期間に思うように練習できないっていうもどかしさ。大きなショックがここ一年であったのでインカレでそれを思う存分ぶつけて最後に早慶戦の分も去年のインカレの分も良い結果を出して終われるように全力を尽くしたいなと思っています。」

 

最高の笑顔を見せる村上

昨年も阻まれたインカレ準決勝の高い壁。そしてその先にある「日本一」のさらなる壁。「不撓な主将」はそんな壁もきっと打ち破ってくれるはずだ。

ここでふと思ったことがある。コンマ何秒という差ではあるが、ストロークである村上が最後に勝利を実感し、喜びをかみしめることになるのではないか、と。これまで積み上げてきたものを発揮し、たくさんの仲間に喜びをもたらしてから最後に自らが喜ぶ。偶然ではあるだろうが実に村上主将らしいフィナーレではないか。

 

最後の最後に村上が最高の笑顔と力強いガッツポーズを見せてくれると信じて――。

 

                                                (記事:東修司、写真:慶應スポーツ新聞会)

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