【應援指導部】勝利を照らす「光」 神宮に響くファンファーレ誕生の裏側

應援指導部

神宮球場の慶大応援席で、今春から新たに鳴り響いているファンファーレ「光」。慶大に好機が訪れると、力強い演奏と手拍子で応援席を一つにし、チャンスパターンへとつなげていく。勝利への思いと塾体育会への希望を込めて生まれた一曲は、どのように作り上げられたのか。制作の過程と随所に込められたこだわりに迫る。

 

吹奏楽団では、毎年4年生の第一指揮が新たなファンファーレを制作する。3年次に指揮サブを務めた部員の中から翌年度の第一指揮が選ばれ、新たなファンファーレの作曲を担当するのが恒例となっている。

今年のファンファーレは、曲を作り始める前から「光」というタイトルに決めていた。「光」には、希望や道しるべ、人を照らすこと、温かさなど、さまざまな意味が込められている。近年、野球部をはじめとする体育会各部が思うような成果をあげられていなかった時期もあった中で、選手を信じ、「再び希望を持ちたい」という思いも、その名前に込められた。

制作当初は、「光」という言葉から連想される明るく華やかなファンファーレをイメージしていた。しかし、試行錯誤を重ねる中で、応援席で実際に曲が流れる場面に立ち返った。目指したのは、選手がヒットを放った瞬間に、応援席全体が「絶対に勝つぞ」という気持ちになれるような曲。明るさだけではなく、選手と同じ気持ちになり、戦意を高める力強さを前面に押し出したファンファーレへと方向性を変えていった。

3月上旬に初めて試奏し、4月1日の入学式で初披露した。その後も神宮球場で実際の響きを確かめながら調整を重ね、計6回にわたって作り直した。大まかな方向性を定めた後も、部員が実際に演奏して吹きやすさを確かめ、各パートから出た意見を反映しながら完成形へと近づけていった。作曲者一人だけで完成させるのではなく、吹奏楽団全体で試行錯誤を重ねながら作り上げた一曲となった。

中でもこだわったのが、「すべてのパートに見どころをつくる」ことだった。一般的な吹奏楽の曲では、トランペットなどがメロディーを担当し、低音楽器は伴奏を担うことも多い。しかし「光」では、スーザフォンをはじめとする中低音の楽器にもメロディーを持たせ、それぞれの楽器が存在感を発揮できる構成にした。管楽器だけではない。従来のファンファーレでは表拍が中心だった鼓手の太鼓に、今回は裏拍を取り入れた。演奏するすべての部員が楽しめる曲を目指したという。さらに、音楽的に特にこだわったのが曲の最後を締めくくる和音だ。パイプオルガンのような重厚な響きをイメージし、「祝福の光」を表現した。

 

一方で、ゼロから一曲を生み出す作業は容易ではなかった。思いついたメロディーが既存の楽曲に似てしまうこともあり、何度も作り直しながら独自の旋律を模索した。そうして完成した「光」は、4月1日の入学式のステージで初披露された。その後、東京六大学野球の開幕とともに神宮球場でも鳴り響いた。

今年は、ファンファーレそのものだけでなく、発表方法にも新たな試みを取り入れた。従来は神宮球場で初披露した後にSNSなどで曲を紹介していたが、今年は事前にSNSで「光」を発信した。さらに、応援席で行う手拍子のタイミングもあらかじめ示した。これまでのファンファーレでも、演奏に合わせた掛け声などが応援席から自然発生的に生まれ、定着してきた。今回は應援指導部側から手拍子を提示したことで、神宮での初戦から観客と一体となった応援をつくり上げることができた。

野球応援で「光」が演奏される場面は、大きく二つある。一つは、デモンストレーションなどでチャンスパターンメドレーへ入る時。もう一つは、神宮球場で先頭打者が出塁した時だ。先頭打者が塁に出ると「光」が鳴り響き、そのままチャンスパターンへと突入する。神宮で初めて「光」が披露されたのは、春季リーグ戦の慶立戦。慶大はその試合で大量得点を奪い、勝利を収めた。新たなファンファーレの船出を、白星で飾る形となった。また今年、野球部が掲げたスローガンは「ファンファーレ」。應援指導部が奏でる音と、グラウンドで戦う選手たちの思いが重なる言葉となった。

 

慶大に好機が訪れると「光」が鳴り響き、演奏、手拍子、声援が一体となって選手たちを後押しする。一つひとつの楽器に光を当て、スタンドからグラウンドへ希望を届けるファンファーレ。その音色は秋も、慶大の勝利を願う人々の思いを乗せて神宮に響く。

 

(取材、記事:小野寺叶翔 取材:岩切太志、日比野優)