慶大は昨季の関東大学リーグ1部で最下位に沈み、10年ぶりの2部降格という屈辱を味わった。「再建」を期して2月から始動した新チーム。2部優勝、昇格を目指し、シーズン開幕に向けて牙を研いでいる。ケイスポでは、新チームの中心を担う選手、スタッフに意気込みを語ってもらった。
第5弾は、松木駿之介(総4・青森山田)主将の単独インタビューをお届けする。3年前、華々しいデビューを飾り関東大学リーグ新人賞を受賞した松木も、先日プロ入りが内定し、いよいよ大学ラストシーズン。度重なるケガを乗り越えエースとして荒鷲軍団を背負う男が、昨季の屈辱、1部復帰への強い思いと覚悟などを語った。
(取材日:3月1日)
うまくいかない自分たちをイメージできていなかった
――2部降格となった昨季を改めて振り返っていただけますか
須田さん(須田芳正前監督)の下でずっとピッチに立たせてもらっていた自分が、ケガをしてなかなかピッチに戻ることができずにチームを降格させてしまったことが心残りです。ずっとピッチに立たせてもらって経験を積ませてもらっていたからこそ、上級生としてチームを勝たせなきゃいけない責任があったし、そのなかで本来ならもっと早くピッチに戻ることができたにもかかわらず、自分のケガに対する知識不足だったり、我慢できず早くピッチに戻りたいと焦ってしまった部分もあって、そういったことで結局チームのためになれなかったことをすごく後悔しています。
――チームも1年間を通してほとんど良い時期がありませんでした
素直に言えば、チームがなかなか一つになれなかった。4年が「頑張ろう」とやっていても3年の上級生としての行動が足らなかったり、1、2年がピッチ外での仕事に対しての理解がなかったり、色々な面で最後までまとまりができなかったかなと思います。
――技術、実力の面だけでなく、そういったことも原因としてあったと
どうしても自分たちの代にフォーカスしてしまうんですけど、3年の代であった僕たちが4年を支えられなかったというか、4年がやろうとしてくれていることに対して、自分たちもそれ以上に引っ張ろう、力を発揮してやろうという熱量が足りなかったと感じています。
――目標を「優勝」と設定し、実際に松木選手などは優勝争いをした経験もあったので、昨季は本当に苦しいシーズンだったと思います
開幕前はとても良いチーム状態だと感じていて、開幕戦も勝った。そこからなかなかうまくいかない自分たちをイメージできていなかったです。実力ももちろんなかったと思います。ただ、これまでの先輩方に優勝争いとかをさせてもらってきて、優勝争いはできると感じていたし、そのなかで一度崩れた時に、それをイメージしていなかった分修正できなかったと、そういうふうに捉えています。
――ケガから復帰以降のご自身のパフォーマンスについては
トレーナーの三浦(哲哉)さんと一緒にずっと体作りをしていて、良い感触が得られたし、サッカーをやることの喜びも感じられて、すごく楽しかったです。ただパフォーマンスの面では、結局5試合ピッチに立たせてもらってノーゴールでした。なかなか満足できるレベルまで戻すことはできなくて、それが最終的に降格争いの試合のなかで響いてしまったかなと感じています。
――流経大戦(1●3)に敗れて降格が決まった時、どのようなことを考えていましたか
良いか悪いかは分からないですけど、正直降格することも準備していたし、本当に4年のみんなと須田さんに申し訳ないという気持ちでした。来年俺たちが1部に戻すしかないと、すぐに切り替えました。
勝てる組織にはその雰囲気がある
――今年度、主将に就任された経緯を教えてください
最初に投票で鴻巣(良真=総4・国学院久我山)、岩崎(湧治=商4・ベガルタ仙台ユース)、俺と3人の候補者が挙がってそこから3人でもみんなでも話し合って、どの組み合わせが一番良いかと考えたときに、どんなときもピッチ上でプレーで見せられる僕と、俯瞰的にチームを見られて、後輩ともよくコミュニケーションを取れている岩崎っていうのがベストな組み合わせじゃないかということで、決まりました。
――気持ちを全面に押し出す主将、一歩引いて支える副将というのは慶大の伝統とも言われますが、そういう意味ではご自身は主将に向いていると思いますか
向いているかは分からないですけど、誰よりもチームを引っ張らなきゃいけない存在になるだろうというのは1年の頃から感じていたし、それを自分に言い聞かせてこれまでやってきて、みんなにもそうやって評価してもらったので、それだけの責任は感じていますし、覚悟もあります。
――主将として、チームにどのような影響を与えたいですか
チームのマネジメント面は主務の松井(隆明=経4・慶應義塾湘南藤沢)を信頼してますし、他のスタッフ陣、グラマネ、学連、トレーナーだったり色々な役職があるんですけど、スタッフ陣を信頼しているので、ある程度は任せています。そのなかでも僕はチームの象徴としているわけで、日々の生活から見られるポジションであると思うし、下田での生活、後輩とのコミュニケーションとか、そういうところは意識してやっています。ピッチ内で示すことはもちろんなんですけど、ピッチ外の部分でも影響を与えたい。勝てる組織にはその雰囲気があるというのは青森山田高校時代に強く感じたことで、靴を並べるとか、部室を綺麗に使うとか、挨拶をするとか、そういった日常を作っていきたいと思っています。
――新体制になり監督が変わりましたが、冨田賢新監督の印象はいかがですか
本気度が選手にすごく伝わっていると思います。僕個人としては、これまでずっと須田さんにお世話になってきて、辞めるということをイメージしていなかったので、須田さんとラスト1年やれると思っていて、辞めると聞いた時はすごく寂しかったし残念な気持ちもあったんですけど、トミケンさんが来て、本気度がすごく伝わってくるので、もう僕たちの監督はトミケンさんだとみんなが理解しています。トミケンさんは監督として以前に人としてみんなから好かれているので、やりやすいですね。
――主将として監督と何か話したことはありますか
特に言われたことはありません。ただ、日常からすごくコミュニケーションを取ってくれるので、日々僕がピッチの中で感じていることと、監督が外から見て感じていることを擦り合わせる作業は毎日しています。
――今年のチームのカラーや特徴はなんですか
みんな真面目だと思います。これまでの慶應もそうなんですけど、「チームが勝つために何ができるかみんなが考えよう」と言えばみんな考えてくれるし、そういうところは主将としてすごくやりやすさを感じています。
――戦術面でこれまでとの違いはありますか
去年はある程度蹴るサッカーというか、そうせざるを得ない状況だったんですけど、今年は、まあこれも理想なんですけど、自分たちで主体的にボールを動かして、相手の背後を狙いながらゴールに向かっていくというのが攻撃のスタイルで、守備の面では、引いて守るというよりは前線から主体的にボールを奪いにいく、つまり総じて主体的なサッカーを目指して取り組んでいます。
――現時点での手応えはいかがですか
危機感はありますね。このままでは昇格という目標は果たせないと感じています。ただ、これまでの練習試合を通して一歩一歩できるようになっていることが明確にあるので、開幕までの1か月ちょっとで一つ一つ課題を潰していきながら、理想のチームに近づけるようにやっていきたいと思います。
――主将として個人的に注目している、頑張ってほしい選手はいますか
江本(優貴=総3・大宮アルディージャユース)ですかね。新3年の江本はこれまでトップチームに関わってはこなかったんですけど、去年の新人戦でキャプテンとしてメンバーを引っ張って全国準優勝という結果も出しているし、今年は江本がキーマンになるかなと感じています。
――今年のチームのスローガン「リスペクト」にはどのような意味が込められているのですか
頑張っている人をリスペクトすることと、リスペクトされる人間になるということを目指しています。去年のチームがあまりリスペクトを感じられるチームではなかったので、今年はリスペクトの気持ちを大切にやっていこうと。
――昨季の反省から生まれたスローガンでもあると
そうですね。部の運営において頑張っている仲間もいて、そういう人たちの姿を見てトップチームの人は「頑張ろう」と思わなきゃいけないし、トップチームの選手が必死に結果を追い求める姿を見て、他カテゴリーの選手も「慶應のために頑張ろう」と思えるチームでなきゃいけない。そういう姿を目指して「リスペクト」となりました。
慶應は1部にいるべきチーム
――今季は最終学年となりますが、優勝争い、新人賞という1年目のインパクトを未だに超えられていないように思います
もちろん僕が活躍したいという気持ちもあるんですけど、一番はチームの結果で僕はその上で生きてくる選手だと思うので、まずはチームのことを考えて、チームを良い状態にできれば自ずと僕の調子も上がってくるだろうし、そうしたらゴールという形でチームを引っ張りたいと思っています。1年目に新人賞を取って以降、それ相応の活躍はできていないと僕も思っています。今年は主将として求められるものは大きいし、みんなが期待してくれていることに応えたいという気持ちは大きいので、頑張りたいと思います。
――今年はエースとして攻撃陣を引っ張っていくという自負はありますか
あります。
――得点にこだわる選手という印象が強いですが、具体的に何点取るという目標はありますか
チームを昇格させるために、15点以上は必要だと思っています。練習試合を通しても感じているんですけど、やっぱり僕が決めないとチームが勝てないというふうには思っています。みんなが最後僕に良いボールを集めてくれるので。
――それは今までと比べてもより強く感じていますか
そうですね。これまで左サイドをやってきて、今は1トップをやっているんですけど、ポジションが1つ上がってシュートチャンスはこれまで以上に多く来るようになったので、そこの個人の精度を高めることと、個人間の連携を高めていけばもっともっとシュートチャンスも増やせると思います。個ではがしてシュートというタイプの選手ではないので、味方のパスからシュートチャンスを作るためにパサーとたくさんコミュニケーションを取って、欲しいタイミング、欲しい場所というのを共有してやっています。
――ポジションが変わって、今までと勝手が違うことはありますか。それとも1トップの方が向いていると思ったりしますか
僕はもともと高校までFWをやっていたのでまあ戻ったと言えば戻ったんですけど、左サイドだとクロスに対して入っていくと相手がマークに付き切れないのでやりやすさがあって、そこのポジションに置いてくれた須田さんと出会えたことは自分の中ですごく大きなことでした。ただ、今年はFWに戻って、クロスに対する入り方もボールを受ける場所も変わってくるし、見える景色も全然違うんですけど、特にやりにくさはないですし、監督とも話してるんですけど左サイドでも1トップでもやれる自信はあるので、こだわりとかはないです。
――今、個人の課題として取り組んでいることは何ですか
「止めて蹴る」です。十数年サッカーをやってきて、それでもレベルが上がれば上がるほど「止めて蹴る」って大事だなって感じる機会が増えて、練習中から意識してやっています。
――ケガと戦う時期が長いですが、現在のコンディションはどうですか
まったく問題ないです。
――1年間ケガせず戦う自信はありますか
まあケガは気をつけていてもするものなので…。ただ、ケガとの付き合い方というのは去年経験できた大きなことなので、それは生かすことができると思うし、周りにケガをした選手がいればコミュニケーションを取ってあげて、少しでも早くピッチに帰ってきてもらえるような行動もできると思います。
――最後に開幕に向けて意気込みをお願いします
1年で1部に戻すことが僕の主将としての最大の任務だと思います。慶應はこれまでのOBのみなさんが作ってくださった歴史や伝統があるチームで、他の大学とは違うと思うし、1部にいるべきチームだと僕は思っているので。昇格するためには昨年の2部のデータからすると3敗しかできなくて、この数字を見ればどれだけ厳しいシーズンになるかということはみんなが理解できると思います。俺たちはチャレンジャーであることを忘れてはいけない。見方を誤ると景色がまったく変わってきてしまうので、地に足を着けて一戦一戦戦っていきたいと思います。
(取材:桑原大樹 写真:中村駿作)
・松木駿之介(まつき・しゅんのすけ)
青森山田高を経て、総合政策学部新4年。ポジションはFW。抜群の得点感覚で慶大の攻撃陣をけん引する一方で、ここ2年は度重なるケガに悩まされた。小柄ながら驚異的なジャンプ力で空中戦に無類の強さを誇る。慶大卒業後はJ2・ファジアーノ岡山に入団することが内定している。