慶大は昨季の関東大学リーグ1部で最下位に沈み、10年ぶりの2部降格という屈辱を味わった。「再建」を期して2月から始動した新チーム。2部優勝、昇格を目指し、シーズン開幕に向けて牙を研いでいる。ケイスポでは、新チームの中心を担う選手、スタッフに意気込みを語ってもらった。
第3弾は、今季からソッカー部のCチームコーチに就任した、戸田和幸コーチの単独インタビューをお届けする。現役時代は日本代表としても活躍し、現在は解説者として名を馳せる戸田氏が、慶大で指導者としての第一歩を踏み出した。世界レベルをその身で知る男は、サッカーをどう考え、現在の大学サッカーに何を思うのか。その信念に迫った。
(取材日:3月7日)
――現役引退後、解説者としてご活躍なさっている戸田さんが慶大ソッカー部のコーチに就任された経緯を教えてください
僕はもともと指導者になるのが一番の目標というか大目標で、1回フリーになって色々勉強しようというのと、指導につながるっていう意味でも、言語化する作業をしようというのと、指導者になるための新しいベースを作ろうっていうので今の仕事(解説業)をしてて、もう5シーズン目なんですよ。4年間やってきて、指導の勉強とライセンスももう終わったんですよ。簡単に言うと、実践する場が欲しいなと思って。自分が勉強してきたことを誰かに渡してみて、本当に良いものなのかってことを自分が知りたくて探してたんですね。
――解説業は続けられながら、コーチをやられると
そうです。
――現役時代で特に印象に残っている試合を教えてください
色々あるんですけど、まあW杯になるんですかね。やっぱり国を代表して、日の丸をつけて戦うっていうのは、アンダーの世代の時からずっとやってきましたけど、やっぱりW杯が特別だなというのはありましたし。海外に行ったデビューの試合とか、Jリーグで優勝した試合とかも思い出には残ってますけど、やっぱり1番はW杯になるんですかね。
サッカーは人間を育むという意味ではすごく良いスポーツ
――桐蔭学園高を卒業後、清水エスパルスに入団しプロになられましたが、当時大学でプレーするという考えはおありでしたか
高校の監督さんにはね、大学に行ってあと4年間準備しろと、夏ぐらいに言われたんですけど。僕は、なんだろうな、プロになりたかったんですよ、簡単に言えば。プロになれるんだったら、ほんのちょっとの可能性でもしがみついてでもその世界に飛び込んで、漠然とというかリアリティはないけど将来的にヨーロッパに行きたいとか、そういう気持ちが強かったですね。大学に行くと、簡単に言うと他にやらなきゃいけないこととかがいっぱいあるでしょ。それよりは「僕はサッカーで行きたい」という気持ちがすごく強かったし、他にやりたい小さいことが何一つなくて、だから大学に行く目的が自分の中では見つけられなかったので、だったら少しでもチャンスがあるんだったらプロに行きたいと思ったんですね。
――当時の大学サッカーに対する印象はどんなものでしたか
僕が20歳前後の頃は、優秀な選手は大学に行ってからプロに行く時代だったから。今で言うとジュビロ(磐田)の監督の名波(浩)さんとかね。ああいう将来的に代表でレギュラーバリバリ取った人が大学でスター選手だったりしたし、実際試合も見に行ってたんですけど、ただ自分が高校出る頃にはやっぱりJリーグがもうできて2、3シーズン経ってたんですかね。高卒で行く人も増えてたし。よりレベルが高くて厳しいところなのは知ってたんですけど、そっちに行こうと思ってたから、大学サッカーも当時だと駒沢とか筑波も強かったし、色々知ってはいましたけど、僕の中には選択肢はなかったです。
――最近の大学サッカーはJリーグや高校サッカーに比べるとそこまで注目度は高くないと思いますが、現状についてどうお考えですか
でも環境面で見てみると、Jのクラブより整っている大学が実際あったりとか、環境面はすごく良いなと思うし、指導者もプロの指導者が大学に流れて良い指導を受けられている選手も増えてるんじゃないかなと思うから。高卒でね、プロに行くのって結構リスクが高いので。身体的にもメンタル的にも成熟してなくていきなり大人の世界に入るっていうのはやっぱり簡単なことじゃないから。人によっては大学でもうちょっと準備して、それからプロに行きたいと思う人もいるし。そういう意味では環境が良い分、逆にすごくきちんと自分を鍛えられるというか、4年間かけてたぶん自分の人生をきちんと考えてどういうふうにしていこうかって選択することもできると思うし。日本は独特ですけどね、ヨーロッパにはないし。ただ大学っていう場所があるのは、いわゆる高校を出る年代でプロになれなくても、プロになる可能性を秘めた選手にとってはすごく安心して強化ができるというか。プロ行っちゃうと基本1年契約でダメだったらクビ切られるっていう違いはあるし、それは良さじゃないですかね。
――それは現役時代にプレーされてきた中で、高校サッカーやユース出身と、大学サッカー出身の選手との間で感じられた違いなのでしょうか
うーん。まあ、基本的に言えば高卒は子供なんで、まだまだ。そこで上手く適応できないとか、やっぱり自信がつかなくて1年で辞めちゃうやつとかももちろんいたし。大卒の場合はもう即戦力なんですよ。即戦力にならないと逆に終わっちゃうんで、そういう難しさはありましたけど。でもやっぱり肉体的にもより成熟して、自信を持って入ってくる人は多かったかなと思いますね。
――ソッカー部の選手たちの印象はいかかですか
簡単に言うと素直で性格の良い子が多いなっていう。サッカーしてる時はひたむきだし、サボることはしないしっていう良いところはあるんですけど。反面、なんだろうな、サッカーという競技の特性を考えると、やっぱり判断するっていうか、局面をどう作って、その局面を相手に対してどう選んでいくかっていう判断力がやっぱり問われてくるので、そこはちょっと弱いかなと思いますけど、正直に言うと。
――指導者としてのS級ライセンスを取得されて、プロクラブの監督という立場になることも可能だと思いますが、「プロクラブの監督」と「大学チームのコーチ」という立場でどんな点が異なると考えていらっしゃいますか
まあリスクじゃないですか。プロは結果出なかったらクビ切られるもんね。大学も厳しいですけど。ライセンス取ったっていっても、車の免許証と一緒なので、もちろんできるんですけど、それを取れたからといってそんなに自信が持てる程のカリキュラムでもなかったし、自分としてはまだまだ勉強しなきゃいけないし。ただこれが、高校になると高1だと中学生に近くて、大学だと大学1年生でもわりと大人に近い年代だから、身体的にもメンタル的にも。将来的にプロで指導するって意味でもすごく年代が近いというか、同じ年代のプロもたくさんいるので、自分にとっても良い機会だし勉強になるなと思ってます。
――指導者としてはソッカー部でデビューということですが、理想の指導者像などはお持ちですか
やっぱりサッカーって、もう完全にチームスポーツなんですね。ボールは1個しかないし、足で扱うってすごく難しいので。だからチームとしてきちんとみんながまとまってプレーできる、サッカーの世界だとプレーモデルって言うんですけど、ちゃんとチームのコンセプトがあって、だけど選手がちゃんと主体的に選んで、それは対戦相手とか状況に対して、判断して選んでプレーができるような選手を育てたいし、チームにしたいし。というところでやっぱり僕も色々なものを見て、ヨーロッパにも行って勉強してきてるから、何か新しいものは作りたいなって。すごく漠然とはしてますけど、今ないサッカーを作りたいなって思ってるし。やっぱりサッカーって「同じ状況は二度とない」って言われるくらい再現性が基本的には低いスポーツだから、そういう意味では選手が11人いたとして、あらゆる局面でボール持ってる人が主役だとしたら、主役は目まぐるしく入れ替わるし、脇役も目まぐるしく入れ替わるし、いつ自分が主役になるかっていうのを、先を見ながら選んでいかなきゃいけない、状況を把握しなきゃいけない、コミュニケーションを取らなきゃいけないっていう意味では、すごく良いスポーツなんですよ。人間を育むという意味ではすごく良いスポーツで、だからそういう面も含めて、ちゃんと技術も必要なんだけどコミュニケーションが取れて、選べる選手とチームにしたいというのは僕の目標ですね。
「ベースは与えるけど、あとは自分の色をそこに乗せなさい」
――既に2月からCチームのコーチとしてご指導なさっていますが、何か手応えなどは感じていらっしゃいますか
手応えっていうところは別にあるかないかって言ったら、あるんだけどない、みたいな。ただやっぱり選手と指導者というのは、明確に線引きはあるんだけど、指導者が偉そうに指導したところで選手は絶対ついてこないし、選手が納得してやるからこそ身に付いて信頼関係が生まれるので、そういうものが出せるように毎日色々考えてトレーニングは考えるし。試合もちゃんと映像分析して、今日もビデオミーティングやったんですけど、CチームにはCチームなりのコンセプトがあるので、それは絶対共有できるように映像を選んでみんなに見せたりとか。色々な角度で刺激を与えて、まずはサッカーというものをきちんと理解して思考をしっかりと働かせて、集団でボールが扱えたり相手ゴールが目指せるようなところを今ずっとトレーニングしてて、少しずつ変わってるとは思います。まだその、なんだろうな、選手たちの中に最後までできたっていう感覚はないですけど、でも少しずつこう転がり始めてるものがあるとして、僕がすることは選手に情報を与えて理解を促して、あとは励ますことですね。やっぱり新しいことをするって、失敗が多いから。ただその失敗に発展性を感じることと、チームの目指す方向に沿って努力をしてるんであれば、それはやった方が良いじゃないですか。だから積極的にチャレンジをして、プレーを細かく見てあげて、何が良くて何が改善したほうが良いのかっていうのを伝えるのが自分の仕事だし。やっぱり今より良い選手になろう、もっと良いサッカーをしようと思ったら、生みの苦しみじゃないけどね、当然失敗は出てくるので、練習ではとにかくチャレンジをさせますし、逆にいうとチャレンジしないことを僕は叱るので、何でやってきたことをやらないんだっていうのは言いますけど。だから選手を励ますっていうことは結構指導者にとって重要なんじゃないかなと思います。「良いんだ、そのままやれ」とか「続けてけ」とか。
――チーム作りの上で参考にしているチームはありますか
まあ色々なチームでやってきましたからね。プロだけだと10チーム超えてるから。でも結局プレーするのは選手だし、最終的には選手に委ねないといけないので、委ねられるだけのものをきちんとこっちが用意して、でも責任は指導者が取るんですけど、全部指導者の言う通りにはならないし、でも指導者がいないと選手は迷うし。だから僕の仕事はチームとしてのストラクチャーというか骨格をしっかり作ってあげて、その上に選手を乗せて、選手の個性をしっかり発揮させることだし、選手が迷わないような道しるべを見つけてあげることなので、それはチームとしての戦い方につながってくるから、そういうことをしっかりやって、あとはやっぱり選手が「自分で探して選んで実践する」っていうサイクルをうまく作っていければいいなとは思うし、少しずつですけどできてきているとは思います。
――選手には「自分で挑戦する」ということを一番求められると
そう。やっぱりサッカーってね、必然的にそうなっちゃうんですよ。「こうなったらこうなる」っていうことはあるようでないので。それぞれがその状況に対して主体的に関わって、見て、考えて、言葉を発してプレーしないとできないスポーツだから。そういうことは彼らが将来的に社会に出ていっても絶対に必要なことだし、じゃないと言われたことだけやるっていう仕事しかできなくなっちゃうので。僕はそんな仕事したこと1回もないんですよ。サッカーしかしてないから。今もメディアの仕事してても、全部自分なりの色は出すし。だから選手に言ってるのは、「ベースは与えるけど、あとは自分の色をそこに乗せなさい」と。攻撃するなら我々のチームとしてある程度の我々の目指す形があるから、それは意識してもらって、あとは自分をそこに乗せろと。だから全部決めることは逆にしないし、どんどんそれができるような形に持っていきたいなと思ってますね。
――ソッカー部ほどの大きい組織になると、トップの試合に出ていない選手の方が多いと思いますが、役割についてどう考えていますか
CチームもIリーグ(インディペンデンスリーグ)っていうのがあるし、僕の役割としてはCチームからチームを活性化させるっていうことがメインだと思うんで、CからBに選手を送り込むとか、Cから新しい風を吹かすとか。僕も勉強してきたものと経験してきたものと色々持ってる方だとは思うんで、指導者同士でもそれを共有するとか、そういうところも含めて。でもCの子はね、Iリーグで結果残したいっていうモチベーションは高いみたいだし、昨シーズンはそういう意味ではなかなか厳しかったらしいし、まあどこもBチームが出てるから。明日(3月8日)実はCチームとBチームが試合をするんですけど、そういうのも自分でちょっとBチームの人に頼んで。やっぱり近いチームとね、チームの中で競争するというのは大事だし、彼らにもきちんとサッカーをプレーする意味と、試合に勝つ喜びと、逆に言うと負ける悔しさみたいなのは、ロボットじゃないんでね、こっちが言ったことを全部やって勝ってもたぶんあんまり嬉しくないし、負けても悔しくないし。きちんと渡したものを自分たちなりに噛み砕いて、主体性を持ってプレーができたら、勝ったらたぶんすごく嬉しいし、負けてもすごく悔しいと思って。そういうチームにしたいし、Iリーグで去年よりは上を目指したいというか、「おお、ちょっと今年は違うな」という感じにはしたいですね。
――指導者としての直近の具体的なコンセプトや目標があればお教え下さい
Aチームにつながるような形でやろうとは思ってるんですけど。やっぱりそもそも持ってる身体的な特徴とかは違うので、フィジカルの強化はもちろんしますけど、僕は基本的に素走りは一切しないし、ボールを扱いながら、局面自体をチームとして意図的に作れるようにするとか、そこできちっと判断して選べるようにするとか、そういう選手とかチームにしていこうってずっとやってるし。そうですね、ひたむきさとかハードワークするっていうのは言わなくてももうやるので、僕は全然言ってないんですよ。ただもちろんしない選手も時にはいるから、「お前それで良いのか」とは言いますけど、ことさらに「相手より走れ」とか「戦え」とかは一切言わないし。それよりもっと大事なものはあって、チームとしていかに戦うかっていう意味では、攻撃の時にどうやってポジションを取るかとか、どうやってボールを運ぶかとか、守備の時はどうやってボールを回収するかとか、そういう具体的な方法論がやっぱりサッカーはすごく重要なので、僕はそっちをみんなに渡して、そのひたむきさとか、単純に言えば「頑張る」みたいなのは、勝手に頑張れと思ってるので、そこはあまり強調せず具体的なサッカーの方を今渡している段階です。今日も言ったんですけど彼らが「こんなサッカーって実は面白いんだ」とか、「こういうふうに集団でボールを保持すると、相手って全然ボール取れないんだな」とか、「走り回らなくてもボールはつながるんだな」とか、逆に「これだけ効率的にボールが奪えるんだな」とかっていうのを教えたいんですよね。
――昨季残念ながら関東リーグ2部に降格したソッカー部ですが、1部に復帰するには何が重要だとお考えでしょうか
2部の中で、どういう自分たちなりのプレーモデル、戦略を取ってチーム作りをすると1部に昇格できるのかっていうのを、まずちゃんと見つけた上で徹底的に強化をすることだし、Aチームに対してはやっぱりBチームっていうのもすごく重要になるんで、そこの競争とか、ある程度の人の入れ替えとかも必要になると思うし。Aは今遠征に行ってるんで、強化はしてきてると思うんですけど。1部に残留するのと2部から上がるのって、たぶん2部から上がる方が大変なんですよ、負けられる数が全然違うから。だから勝てるチームを作らなきゃいけないって意味では、昨シーズンと違くなきゃいけない。ひょっとしたら相手がすごく守ってくるかもしれない、とかそういったところは、ちゃんとリーグなりの特性とか対戦相手の特徴はある程度分析して把握しておかないと。ゴールにボールを入れるってすごく簡単なようで難しいから、相手がこういうチームであるっていうのを満遍なくちゃんと調査しておいて、そこに対応できるようなトレーニングをして準備をするっていうのが重要になると思うんですよ。
――最後に、ソッカー部を応援してくださっている方々にメッセージをお願いします
昨シーズンがやっぱりね、残念なシーズンだったから、周りの期待度とか要求は高いと思いますけど、「簡単ではないですよ」ということは言いつつ、でもそれは絶対に果たさなきゃいけないことだと思うので。やっぱりシーズンってね、色々なことがあるんですよ。上にいたチームが下に来た時にすんなりいくわけでもないし。だからやっぱり何があっても最後まで前向きな応援をしてもらえたらなと思いますし、そうしたらきっと選手たちも勢いを感じていつも以上のパワーが出るとか、自信を持って戦えるとか結果が出やすくなるんじゃないかなと思います。
(取材:髙橋春乃 写真:中村駿作)
戸田和幸(とだ・かずゆき)清水エスパルスなど複数の強豪クラブで活躍した元サッカー選手で、現在の職業は解説者、サッカー指導者。現役時代のポジションはMF、DFで、ハードなプレーを持ち味としていた。