ついに明日・9月8日、神宮の杜に陸の王者が凱旋する。慶大史上2度目の3連覇を目指す開幕カードの対戦相手は東大だ。昨季は10連敗、直接対決でも結果としては圧倒したが、昨秋は敗戦を喫するなど勝負は蓋を開けてみないとわからない。慶大・東大共に春の内容を振り返りながら、慶大が秋にクリアしなければならないポイントを解説していく。
1.春季リーグ戦の振り返り
対戦成績(春季リーグ最終成績) | ||||||
| 慶大 | 明大 | 法大 | 立大 | 早大 | 東大 |
慶大 |
| ●0-2 | ||||
明大 | ●○● |
| ●● | ●○○ | ●○○ | ○○ |
法大 | ●● | ○○ |
| ●△● | ●○● | ○○ |
立大 | ○●● | ○●● | ○△○ |
| ○○ | ○○ |
早大 | ●○○ | ○●● | ○●○ | ●● |
| ○○ |
東大 | ●● | ●● | ●● | ●● | ●● |
|
順位表(春季リーグ最終結果) | |||||||
順位 | 大学 | 勝ち点 | 試合 | 勝 | 敗 | 分 | 勝率 |
1 | 慶大 | 4 | 13 | 9 | 4 | 0 | 0.692 |
2 | 立大 | 3 | 13 | 8 | 4 | 1 | 0.667 |
3 | 明大 | 3 | 13 | 7 | 6 | 0 | 0.538 |
3 | 早大 | 3 | 13 | 7 | 6 | 0 | 0.538 |
5 | 法大 | 1 | 12 | 5 | 6 | 1 | 0.455 |
6 | 東大 | 0 | 10 | 0 | 10 | 0 | 0.000 |
慶大が4カード連続で勝ち点を獲得。トップを快走した慶大と苦戦した東大以外はほぼ団子状態だったこともあり、慶大は第8週の早慶戦を待たずに優勝が決定する結果となった。
| 得点 | 打率 | 長打率 | 出塁率 | OPS | B/K |
慶大 | 56② | .278② | .372③ | .363② | .735② | 0.74① |
立大 | 43④ | .239⑤ | .355⑤ | .298⑤ | .653⑤ | 0.33⑤ |
明大 | 73① | .295① | .402① | .378① | .780① | 0.71② |
早大 | 39⑤ | .242④ | .362④ | .307④ | .667④ | 0.38④ |
法大 | 58② | .264③ | .390② | .327③ | .717③ | 0.52③ |
東大 | 11⑥ | .154⑥ | .231⑥ | .212⑥ | .443⑥ | 0.22⑥ |
注:OPSは出塁率+長打率、B/Kは四死球/三振。
打撃指標でみると明大が打率の高さも相まって1位が多かった。三振に比べて四死球も少なくないという粗さもない明大らしい打撃陣は明大の好調を支えていたといえる。一方慶大も長打率こそ3位も出塁率は2位。三振と四死球の比率では他大学と比べ一番優秀な値が表れたとおり、粘り強い打撃が持ち味だった。値として注目したいのは立大。打率に比べて長打率が高く、各打者のスイングの強さが表れている一方で出塁率は2割台、三振の数が四死球の3倍と粗さの目立つ結果となった。
今週対戦する東大は打率の低さが相まってすべての部門で最下位だった。打撃の粗さも目立つ一方長打力も発揮できずでは10試合で11点という得点力も頷ける。
| 失点 | 防御率 | 被打率 | 被出塁率 | 被長打率 | K/B |
慶大 | 33① | 2.08① | .181① | .279① | .247① | 2.76② |
立大 | 40② | 2.50② | .215② | .297② | .295② | 2.58④ |
明大 | 42④ | 2.94③ | .226④ | .310④ | .326④ | 2.75③ |
早大 | 44⑤ | 2.95④ | .221③ | .326⑤ | .313③ | 2.20⑤ |
法大 | 41③ | 3.34⑤ | .231⑤ | .291③ | .347⑤ | 3.28① |
東大 | 80⑥ | 6.33⑥ | .294⑥ | .432⑥ | .424⑥ | 0.50⑥ |
注:K/Bは三振/四死球
投手を見てみよう。やはりほぼすべての指標で慶大がトップだった。「U2(2失点以下)」を掲げ、防御率も2.08とほぼ目標値に近づけた。実は2失点以下は13試合中7試合にとどまっているのだが、他の6試合も3失点が3試合、4失点が2試合。早慶2回戦のみ9失点を喫したが投手陣が大崩れしなかった。次いでほとんどの値で2位に輝いたのは立大。これはやはり大エース・田中誠也(コミ3・大阪桐蔭)の存在が大きいだろう。最低限の制球力と球の威力を表すK/Bの値が低いのは総イニング(115)の半分近く(54.1)を投げた田中誠(K/BB4.10)以外の選手がほとんど2程度に収まっているためで、2戦目先発に苦しんだ立大の投手状況を表していると言える。一方法大のK/Bのみ低いことは与四死球1ながら7奪三振の石川達也(キャ2・横浜)や与四死球2ながら14奪三振の三浦銀二(キャ1・福岡大大濠)ら救援陣の活躍が数字に表れていると言えるだろう。
東大を見てみると、こちらでもやはり最下位を独占。奪三振に対して2倍の四死球を与えるなど、制球力の低さとスピード不足が顕著に表れる結果となった。
2.春から見えた慶大の課題とは
3連覇を目指す慶大の課題。まず打撃で見てみると、前述のように長打率だけは秀でていなかった。長打率-打率であるIsoPで見ると東大に次いで5位にまで落ちてしまう。本塁打数も東大と同じく3本。粘り強さが優秀とはいえ、長打は流れを変える力も持つことも考えると、この長打力では物足りない。この課題に対し、夏の間はスイングを磨いてきた。その結果オープン戦の得点力もアップしているだけに、開幕戦でも強力打線が猛威を振るってくれることを期待せずにはいられない。
投手陣はほぼ文句のない成績だったが、やや与四死球が多かったようにも見える。1イニングあたりの与四死球数(B/IP)で見ると6チーム中4位だ。もちろん不用意な一本を食らわないことも大切ではあるが、余計な四死球には気を付けてほしい。
そして何より問題だったのが先制点だ。13試合で先制点を取ったのが東大戦2試合と立大2回戦のみ。先制された10試合で6勝しているから「逆転の慶應」と誇ることもできるが、先制した試合では安定した試合運びで全勝していること、そして何より強力な投手陣が存在することを考えると先制点は握っておきたい。失点の内訳をみても、同点打を許したのは1度(東大2回戦4回1―0から)、先制打を除いて勝ち越し打を許したのは1度のみ(明大3回戦7回3―3から1点)と投手陣は同点・僅差のリード時に無類の強さを誇っている。それだけに何より先制点は重要だ。
なお逆転した試合で勝ち越したのは4回2度、5回2度、9回と10回に1度ずつ(ともに明大戦のサヨナラ)。敗戦した試合は4試合中3試合が零封されており、もう1試合は立大1回戦で9回に意地で2点を返した試合だった。中盤までに打線の流れを作って反撃の足掛かりを作りたい。
| IsoP | B/IP |
慶大 | .094⑤ | .385④ |
立大 | .116③ | .330② |
明大 | .107④ | .344③ |
早大 | .120② | .431⑤ |
法大 | .126① | .238① |
東大 | .077⑥ | .680⑥ |
3.東大戦対策とは
昨季の対戦を振り返ってみると、初戦は14安打15得点・被安打1の11奪三振完封での完勝。2戦目は9安打5得点とやや苦しんだが被安打5の16奪三振1失点と投手力にものを言わせて逃げ切っている。
相手の打線をほぼ完ぺきに封じ込めた投手陣だが、油断はできない。東大も打線を春のウィークポイントとして夏は打力アップに務めていたようだ。警戒すべき打者はやはり辻居新平(法3・栄光学園)だろう。昨季は打率.231と苦しんだが、明大の森下暢仁(政経3・大分商)から先頭打者本塁打を放つなど、昨秋3割も記録した打撃は侮れない。辻居に限らず新堀千隼(教養3・麻布)や岡俊希(文Ⅰ2・小倉)などツボに入れば一発長打のある打者が揃っている。昨秋は2発を浴びるなどその打撃に苦しめられただけに、細心の注意を払って臨んでほしい。
開幕投手はエースの髙橋亮吾(総3・慶應湘南藤沢)が最有力とみられる。ここ2季先発として東大戦で登板し17回被安打6失点2と付け入る隙を与えていない。開幕戦を確実に取るためには適任といっていいだろう。菊地恭志郎(政4・慶應志木)が春と同じように2戦目の先発を任されることになるだろう。だが意外なことに東大戦での先発はなく、5登板全て中継ぎで6回2失点という数字が残っている。その次の先発候補としては髙橋佑樹(環3・川越東)の名が挙がる。昨季は中継ぎとして大ブレイクしたが、2年春は先発投手として規定投球回を投げている。速球変化球ともにレベルアップを果たした左腕が更なるブレイクを果たすことができるか。抑えには六大学選抜の大学JAPANにも選出された石井雄也(商3・慶應志木)が今季もどっしりと座る。その他には田中裕貴(環4・芝)など春に登板した選手たちはもちろん、秘められた投手たちも東大戦でベールを脱ぐかもしれない。
投手陣の目標であるU2を今季こそ達成するためにも、ぜひとも東大戦を無失点で終えたいところだ。
東大投手陣とのマッチアップを見てみる。2戦目で先発した小林大雅(経3・横浜翠嵐)が6回で自責点1とその後エース格としての活躍した片りんを見せていた。この秋の開幕投手最有力でもあり、しっかりこの小林を捉えることが大事になる。与四死球は慶大戦6イニングで5つ、春季41イニングで31個と制球は良くないため、大振りするのではなくストライクボールをしっかり見極めてチャンスを作り出すことから始めたい。他の投手陣では背番号1を背負う宮本直輝(教育3・土浦一)、有坂望(教育4・城北)の両右腕の出番が多くなりそうだ。宮本は開幕戦でこそ5回で5失点したが、2回戦では4回1失点に抑えている。有坂も1回1失点ながらバッテリーミスによるもの。威力ある速球を持つ両投手だけにしっかり捉えられるか。他にも東大には変則投手などさまざまな投手が存在し、上手く継投につながれると的は絞りづらい。各打者の対応力という面にも注目だ。
打線では4番の郡司裕也(環3・仙台育英)の前後、3番柳町達(商3・慶應義塾)と5番内田蓮(総4・三重)が重要になる。柳町は昨季打率.269、二塁打6本は最多も三塁打と本塁打は0本と迫力がやや欠けた。ここ3季は3割を割っており、面目躍如のためにも天才バッター完全復活といきたい。内田は5番として郡司が歩かされた場合に重要な場面を任せられることになる。4年の意地として好機での一本に期待せずにはいられない。
オープン戦ではたくさんの選手が経験を積むとともにアピールにも成功。内外野ともに春とは違うメンバーが出場することが十分考えられるほど層は確実に厚くなっている。今後の秋季リーグを占ううえでも、途中出場の選手からも目が離せない。
連覇を果たしたことで、確実に五大学は慶大を倒すための策を練ってくるに違いない。しかしそれさえもはねのけるのが”六の王者”。今一度その威光を示すためにも、東大を投打で圧倒し、連勝で勝ち点を獲得したい。
(記事:尾崎崚登)