来たる12月23日に開幕する第27回全日本大学女子サッカー選手権大会。決戦を前に、慶應スポーツ新聞会ではインカレ直前企画として3夜連続でコラムをお届けしていく。第2弾となる今日は工藤真子(総3・日テレ・メニーナ)副将を特集します。
チームの心臓
今季、関東大学女子サッカーリーグを7位で終えた慶大ソッカー部女子は、史上2度目のインカレ出場権を手にした。総合成績は2勝4分3敗ではあったものの、強豪校である早大や日体大と接戦を繰り広げ勝ち点を獲得するなど、その確かな実力を見せつけてのインカレ圏内フィニッシュ。昨季は2部で戦っていた中で昇格初年度にして全国大会行きを決めたことは特筆すべきことだろう。そしてそんなチームの中でひときわ存在感を放っている選手がいる。それが工藤真子(総3・日テレ・メニーナ)だ。
今季からチームの副将を務める工藤はボランチやサイドバック、時にはセンターバックなどもこなすオールラウンダー。高校時代を強豪クラブの日テレ・メニーナで過ごした彼女は大学1年次からコンスタントに出場を続け、今やチームにとって欠かせない中心選手になった。そんな工藤の持ち味は何と言ってもそのフィジカルとテクニック。小柄ながらも体を張った守備や対人の強さを見せ、試合終盤までピッチを上下するほどのスタミナも持ち合わせている。そのうえ繊細なボールタッチや精度の高いパスやクロス、ドリブルを併せ持つなど攻守両面で高レベルのスキルを持つ選手だ。また、基本的にボランチを主戦場としている工藤は読みの良さと寄せの速さで相手の攻撃の芽を摘み、そこから攻撃のスイッチを入れることができる貴重な存在でもあり、ピッチで見せるその存在感と安定感は群を抜いている。ピッチでも中央でプレーする彼女はまさに慶大の心臓ともいえる。そしてその活躍は慶大だけにとどまらず、昨季からはユニバーシアード日本代表にも選出されるなど正真正銘、全国クラスの選手へと成長した。
シーズン序盤の苦悩
だがそんな工藤もまだインカレの出場経験はない。入学初年度はインカレ出場の可能性はあったもののチームは降格。昨季は2部での戦いを余儀なくされた。「インカレには繋がらない」という葛藤の中、何としてでも1部に上がり全国に行きたいという思いでチームの中心として活躍し、慶大の1部昇格に貢献した。そして迎えた今季、自身初となるインカレの出場を目指して臨んだシーズンだったが、いきなり大きな壁にぶつかることになる。関東女子サッカーリーグ第1節の早大戦。昨年の早慶定期戦以来となるライバルとの試合で1-9の大敗を喫してしまう。簡単な相手ではないことは分かっていながらも、想像もしなかった結果に工藤は落胆するとともに大きな危機感を感じた。学年も上がり3年生として、そして副将としてチームを引っ張って行く中でどうしていくべきか悩んだ。「このチームはまずいんじゃないか」とも思った。しかし「でもやるしかない」と切り替え、覚悟を決めたという工藤。まずは「ピッチで誰よりも引っ張って行くという気持ち」を持つことを心掛けた。またプレー面でもより責任感のあるプレーが増えた。以前よりも「軽いプレーはしなくなった」という工藤。「みんながつらい時は絶対にさぼらず体を張って走りたいと思っているし、自分の姿を見て後輩たちが頑張ろうと思えるようなプレーは心がけています」という言葉からは3年生、そして副将としての自覚と責任感が感じられる。
苦しみながらつかんだ全国への切符
チームが苦しい状況の中で一選手、そして副将として何ができるのか。現実を突きつけられたシーズン初戦から工藤は試行錯誤をしてチームのためにやれることを続けていった。そして迎えた大学リーグ第8節。この時点でリーグ6位とインカレ圏争い真っただ中だった慶大の相手はシーズン始めで大敗したライバル、早大。今季ここまでは定期戦も含めて3戦全敗と力の差を見せつけられていた。当然勝利を目指していながらも、それと同じくらい早大の強さも分かっている。慶大にとってはまだ格上だ。しかしこの試合で主導権を握ったのは慶大だった。前半かららしさを見せたサッカーで早大を苦しめ、最終的にはアウェーで勝ち点1をもぎ取ったのだ。初勝利とはならなかったものの、シーズン初めに大敗を喫した相手に互角の戦いを見せ獲得した勝ち点1はチームに大きな自信をもたらした。シーズン序盤は正直「苦しかった」という工藤。しかしこの試合で「まだまだやれるんじゃないか」と自信をつけたチームはここから変わったと話す。そしてこの試合で勢いに乗った慶大は、その後最終節の山梨学院大戦で勝ち点を積み上げ、見事インカレ出場を決めた。今季最初の試合で大敗したことによって芽生えた意識。副将として何ができるのかを考え、行動した末にそのライバルとの試合でチームに自信をつけることができた。
いざ、インカレへ
副将として迎えた今季。苦しいシーズンスタートとなった中でどのような声掛けをするのか、ピッチでどのようなプレーをするべきなのか。副将だからこそ感じる難しさの中で自分なりの答えを探してきた工藤はピッチ内外でチームを引っ張り、最終的にチームをインカレ出場へと導いた。そして次はいよいよインカレでの戦いが始まる。以前は当たり前だった全国の舞台をやっとの思いで手にした今、工藤は「インカレの重み」を初めて実感している。「1試合1試合を大事にしたい」というこの言葉も苦しいシーズンを乗り越えてきたが故のものだろう。しかしチーム目標はあくまでその先の「インカレベスト4」。そこに向けて本大会では「少しでもチームに貢献できるようなプレーをしたい」と工藤は話す。ここからは1試合1試合の勝負。負けられない試合が続く中で、まずはインカレ初勝利を目指す。そしてそんなチームの中でも全国の舞台を良く知っている工藤の経験は本大会でも必ず生きてくるだろう。副将として臨んだ今季、山あり谷ありのシーズンの中で心身ともに成長した工藤が慶大をベスト4へと導いてくれるだろう。
(記事:岩見拓哉)
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