来たる12月23日に開幕する第27回全日本大学女子サッカー選手権大会。決戦を前に、慶應スポーツ新聞会ではインカレ直前企画として3夜連続でコラムをお届けしていく。第一弾となる今日は、これまでの戦いの軌跡とインカレの展望を整理していきたい。
大学リーグを振り返る
試合終了を告げるその笛は、インカレベスト4への汽笛となった。慶應義塾大学女子ソッカー部は、関東大学女子サッカーリーグ最終節・山梨学院大戦で勝ち点を10に伸ばし、3年ぶり、創部以来2回目のインカレ出場を決めた。
この試合から、さかのぼること2か月半前。慶大は、関東女子サッカーリーグで最下位に沈む中、大学リーグ開幕を迎えた。初戦の前年女王・日体大戦では一時は逆転するなど互角に戦い、続く第2節では勝ち点3を獲得。順調なスタートを切った。だが、第3節の大東文化大戦でリーグ初黒星を喫する。伊藤洋平監督が「完全に我々の慢心、油断」と振り返ったこの試合は堅い守備とシンプルなカウンターの餌食となり、一瞬の隙も許されない1部の厳しさを再認識させられた。
そして最終順位や内容を考えると、この敗戦がインカレの行方を最終節までもつれさせた大きな要因の1つとなったことは間違いない。次節の帝京平成大戦は力負けで完敗。連敗を喫した慶大は、優勝戦線からここで脱落した。しかし、幸いにも1か月間に及ぶ皇后杯予選が始まり、ある意味では大学リーグの調整期間を迎えることができた。中島菜々子(総4・十文字)主将が「総力的に成長できた」と語った皇后杯予選では、プレッシャーのかかる試合を何試合も経験。戦力的な厚みを得た。そして中断期間明けの東洋大戦で、皇后杯予選での成長を感じさせる白熱した好ゲームを披露し2節ぶりの勝ち点を挙げると、勢いそのままに武蔵丘短期大も撃破。下位チームの中から一歩抜け出すことに成功した。さらに第8節の早慶戦では女王相手に一歩も引かず、あわや初勝利という激闘を演じるなどインカレ出場権獲得へ向け突き進んだ。
貫いたスタイル
伊藤洋平監督は、近年言語化され世界的なトレンドとなっているポジショナルプレーを志向する。これは、選手のポジショニングに決まりごとを作り、チーム全体の連動性を計画的にするもので、大学女子サッカーでは珍しい。シーズン序盤は自陣でのボールロストが目立ち結果が出ず不安定な試合が続いたが、徐々に決まりごとが浸透。組み立ての精度が向上し、攻守一体のサッカーでボールの”奪われ方”も改善された。前述のとおり、大学リーグ後半ではインカレ3連覇中の早大、そして昨年ベスト4の東洋大から勝ち点を奪うなど、目の前の1戦1戦をこなしながら確かな成長を見せていった。
これは、“最先頭”と“最後方”が固定されたのも大きな要因となった。”最先頭”山本華乃(理2・横須賀シーガールズ)は新エースとして1トップを担い、献身的なポストプレーと長身を生かしたプレーで4得点をマーク。得点女王争いに最後まで食い込んだ。”最後方”志鎌奈津美(環4・常盤木)は4年生ながら今季途中にGKへ転向。10番を背負い去年までFWとして活躍した彼女は高いフィード能力で積極的に組み立てに関与し、伊藤監督がGKに求める役割を見事にこなした。さらに特筆すべきは持ち前の身体能力を生かしたセービング力。毎節信じられないようなスーパーセーブを連発し、幾度となくチームを救った。間違いなくインカレ出場の影の立役者は彼女だ。
慶大旋風を巻き起こせ
インカレベスト4を目標に掲げた今季。1部昇格初年度でのインカレ出場は評価に値するが、まだスタートラインに立ったに過ぎない。一段階高いレベルの戦いに向け、気になるのは多くの試合でシュート数が乏しかった点。組み立ての精度、そして敵陣内での崩しの精度向上が改善されてきた今、一発勝負の戦いで求められるのはゴールという結果だ。そういった決定力という点では、山本の活躍が必要不可欠となる。また、苦しい時間帯でも1発で試合の流れを変えることのできるセットプレーは、鈴木紗理(総2・十文字)を擁する慶大にとって大きな武器になる。
インカレ出場を決めてから期間が空き、2週間前の関東リーグ最終節でも新たな成長の片鱗を見せた慶大。「また1つ成長した慶應のサッカーをインカレでお見せできる」という伊藤監督の言葉からは確かな自信を感じた。「なにかやってくれるのでは」という期待感が今のチームにはあり、下克上の荒鷲旋風を十分に巻き起こせる。いよいよ迎えるTEAM2018最終章。歓喜の若き血を響かせるその日まで―――彼女たちは決して歩みを止めない。
(記事: 柴田航太郎)