21日に行われた関東リーグ第6節、日体大戦。0-2の完敗を喫したこの試合で1人、56分にベンチへ退くまで敵に脅威を与え続けた男がいた。杉本崇太朗(政1・名古屋グランパスU-18)。1年生にして須田芳正監督の信頼をつかみ4試合連続でスタメン出場中の、慶大希望の星だ。
今季名古屋グランパスU-18から慶大に加入した杉本は、ユース世代のスター松岡瑠夢(総1・FC東京U-18)とともに即戦力として期待されると、第2節・東国大戦(0●3)で早くもデビュー。以降、故障者続出のアタッカー陣の中で右サイドハーフのポジションを確保し、堂々たるプレーを見せている。彼の一番の武器は、何と言ってもその左足のパンチ力。ひとたびシュートレンジに入れば上級生に全く遠慮することなくゴールを狙い、強烈なミドルシュートで会場を沸かせてきた。ユース時代はそのシュート力を武器にFWを務めていたが、須田監督は「カットインして左足でシュートも打てるし、スルーパスも出せるし、逆へ展開もできる」と、杉本の攻撃センスを評価し右サイドで起用。杉本自身も、「右サイドで左足でボールを持つことでプレーの幅が広がっている」と、確かな手応えを口にする。また、献身的なプレスも魅力の一つで、彼のボール奪取から始まるショートカウンターが毎試合チャンスを作り出している。今や杉本は、慶大の攻撃にアクセントを加える前線のキープレーヤーだ。
そんな杉本だが、そのユース時代では決して栄光の日々を過ごしてきたわけではなかった。高校3年生だった昨年もAチームでの出場機会は数えるほど。「あの思いはもうしたくない」。挫折を知る彼は、応援席で歌う部員たちに対する思いを語る。「150人以上の部員が、本気で、心から応援してくれている」。「僕には彼らの気持ちが分かる。彼らのことを考えると、絶対に無責任なプレーはできない」。技術やセンスだけが武器の選手を、須田監督は信頼しない。自分のプレーに責任を持ち、闘える選手だけが、慶大を背負って戦う資格を持つ。与えられたチャンスをきっちりと生かしてスタメンに定着した杉本の強さは、ここにあるのかもしれない。
前線のポジション争いは、熾烈を極めている。杉本も含め多くの選手がFWとサイドハーフの両方をこなし、アタッカー陣のほぼ全員がライバルと言える中、杉本は攻撃の中核を担う近藤貫太(総4・愛媛FC)や渡辺夏彦(総4・国学院久我山高)への対抗意識を隠さない。「貫太くんや夏くんは点を決めているけど、自分は1点も取っていない。天狗になっている暇はない」。故障者が徐々に戻ってくる中で定位置を確保し続けるために、目に見える結果が求められていることを誰よりも理解している。「貫太くんや夏くんより、チーム内で一番点を取りたい」と語るその目には、すでにチームの中心選手になろうという意識さえ感じられた。謙虚さは忘れず、現状には満足せず。杉本の野心は、更なる高みを目指し燃えている。
杉本が担っているのは、すでに慶大の“未来”ではなく“今”だ。慶大は現在2戦連続で無得点に終わっている。チームも、監督も、慶大ファンも、誰もが心待ちにしているだろう。慶大のスーパールーキーがゴールで関東リーグにその名を轟かせる、その時を――。
(記事 桑原大樹)