3日に行われた関東リーグ第8節・流経大戦で、慶大は今季2度目のクリーンシートを達成した。第7節・東洋大戦(0●3)の惨敗から一転、チーム全体で攻守一体となったサッカーを見せた慶大だが、試合の最後まで闘志を燃やして走り続けていたのは、増田皓夫(商3・桐蔭学園高)だった。ピッチ外で見せる穏やかな表情からは想像もできない、全力を尽くしてチームのために走り続ける彼のプレーは観客を引きつける。
昨年の早慶戦後、大きなケガを患ってしまった増田は、治療の道筋も見えない苦しい時間を過ごした。トレーナーと相談しつつ、様々なリハビリ方法を試してみては一進一退、そんな苦境であっても彼がくじけず再びピッチに戻ってこられたのは、自分を支えてくれた人のおかげだった。インタビュー中にも、同期の名前や、マネージャー、そしてコーチの名前を複数挙げ、その全員に感謝の気持ちを述べていた増田。「自分が一人じゃサッカーできないことを痛感した」というのは彼の偽らざる本心だろう。
そして、ついにチャンスが巡ってきた。本職であるボランチではなく左サイドバックでの起用だったが、首位との大事な一戦で今季初スタメン。豊富な運動量を活かした前線への効果的なパスの供給、そして相手の攻撃の芽を絶つ激しいプレスを両立させ、試合で存在感を出した。経験豊富な昨季までの4年生が抜けた穴を各個人のレベルアップで補うのではなく、チーム全体として全員攻撃、全員守備を徹底することでサッカーの質を向上させようとしている慶大にとって、増田の働きは大きなものがあった。試合の結果はすでに書いた通り。首位相手に1点も許さなかったことは今後の試合でもプラスになるだろう。
今季初出場でまずまずのプレーを見せた増田の目標は、「応援したくなるような選手になりたい」。どんなポジションでも仲間のため、チームのために走ると話す彼の口調は淡々としていたが、プレーからも分かるように、その決意は並々ならぬものだ。長いリハビリ生活の中で経験した多くの人からの支援。その意味を噛み締めてきた増田の言葉は、非常に重みがある。支えてくれる人々への感謝を胸に、これからも彼は全力でプレーする。
「大学4年間で人間としても、サッカー選手としても成長していかなければならない」。そう語る増田は、これからどのような飛躍を遂げていくのか。長期離脱を乗り越えて、より成長した増田ならば、これからの慶大をより良い方向へと導いてくれるだろう。彼のシーズンは、まだ始まったばかりだ。
(記事 中村駿作)