関東リーグ第14節・専大戦(1●3)。2点ビハインドの54分に、その時は訪れた。右サイドからのクロスに合わせ、高い打点から放たれたヘッドはゴール左隅へ。9番・池田豊史貴(総4・浅野高)の、待望の関東リーグ今季初ゴール。慶大の“ジャンボ”が帰ってきた。
池田は、進学校として有名な浅野高から慶大に進学し、ソッカー部に加入した。彼の恵まれた体格に目を付けた当時の4年生が付けたあだ名が、“ジャンボ”。とはいえ、サッカー強豪校出身でなかった池田は、一番下のチームからのスタートとなった。「プレーでも仕事でも、自分にできることは何でもガムシャラにやってきた」。激しい競争に生き残り、2年秋に関東リーグ初出場を果たして以来、貴重な大型FWとしてトップチームの戦力に。Bチーム落ちを経験した時期もあったものの、“高さ”と“強さ”というオンリーワンの武器を自負し、それを磨き続けた。そして4年生となった今季、関東リーグ開幕前の試合で存在感を示し、「エースとしてチームを引っ張る」と意気込んでいた。
しかし、関東リーグ開幕戦のピッチに、池田の姿はなかった。痛恨の負傷離脱。慶大は開幕戦こそ勝利したものの、前線にケガ人が続出し、深刻な得点力不足に陥っていく。誰もが9番の一刻も早い復帰を待ち望む中、池田のケガは長引いた。「自分にできることは何だろう」。献身的な池田はトレーナーとして毎試合ベンチ入りしたが、それもまた彼に焦りを生んだ。「チームが苦しんでいるのをより近くで見ていて、でも自分は試合に出れない。もやもやした気持ちがずっとあった」。結局この前期、池田がピッチに立つことはなかった。
関東リーグの不振、そして早慶定期戦の惨敗を受け、今夏、慶大は大きな戦術変更に踏み切った。開幕から掲げていたハイプレスを捨て、自陣に引いて守備陣形を構築する戦術を採用。攻撃では、後方からのロングボールを前線のターゲットマンに当て、そこを起点とする形を徹底した。前線でロングボールを一手に引き受ける攻撃の核こそ、他でもない池田である。彼の出来が、慶大の攻撃力に直結するということだ。復帰直後の池田をキーマンに据えた須田監督の厚い信頼に、池田は前節・法大戦(2○1)のアシスト、そしてこの日の復活弾でしっかりと応えてみせた。「(前期の鬱憤を)爆発させてやろうという気持ちを持ち続けてきた」。最終年の半分を棒に振った彼の後期に懸ける思いは、並大抵のものではない。未だ残留争いから抜け出せない慶大の命運は、最前線で体を張り続ける池田にかかっている。
数多の競争、苦悩を乗り越え、彼はピッチに立つ。“ジャンボ”は、慶大を救えるか——。残り8節。苦労人・池田が、最後の舞台で暴れ回る。
(記事 桑原大樹)