【ソッカー(女子)】〈コラム〉「チームメイトが原動力に」前十字靭帯断裂から復活のゴールまで 岡田恭佳が進み続けた385日

ソッカー女子

 2026年7月18日。関東大学リーグ1部後期第4節。ホームに強敵・日体大を迎えた慶大は0−2と2点ビハインドの試合終盤、岡田恭佳(環4・十文字)の2季ぶりのゴールで1点を返したが、直後に突き放され1-3で敗れた。 

 結果からすれば、岡田のゴールは勝敗に関与しない1点だったかもしれない。ただ、このゴールに至るまでの岡田の努力を知ると、勝敗に関与しない1点として終わらせることは、どうしてもできない。

 このゴールから遡ること384日、2025年6月29日。関東大学リーグ2部後期第1節。試合序盤、スタメン出場した岡田をアクシデントが襲った。相手との競り合いで足を伸ばしたところで右膝を痛め、ピッチにうずくまる。駆け付けたトレーナーからプレー続行不可能のサインが出され、担架で運び出された。診断結果は前十字靭帯の断裂。競技復帰まで10カ月を要する大けがだった。

 翌週のリーグ戦はここ数年の慶大にとって最も重要な試合だった。勝ち点差3で追う首位の国士大との直接対決。勝てば慶大が得失点差で1部自動昇格圏の首位に立つ、まさしく天王山だ。岡田の姿はピッチにもベンチにもない。松葉杖をつき、部員で唯一スタンドから観戦していた。

 「前回の試合でけがした主力の子もいたので、その子のためにも頑張って勝ち切りたいという思いでチーム全員戦いました」(小熊藤子(当時環4/令8環卒・現RB大宮アルディージャWOMEN))。試合前、スタメンの11人は岡田の3番のユニフォームを掲げて写真撮影をした。

 

 試合はTEAM2025の最高のパフォーマンスと言えるほどの内容だった。後半、髙松芽衣(当時環2/現環3・植草学園大学附/ジェフユナイテッド市原・千葉レディースU18)が2得点を挙げ、完封勝利。中村美桜(当時理4/令8理卒)の父・貴裕さんは「彼女(岡田)の魂もグラウンドにあり、その魂が勝利を引き寄せたと思うと、目頭が熱くなりました」と振り返る。試合後、ヒーローの髙松は岡田のもとに駆け寄り、言葉を交わした。「きょうの試合は恭佳さんのために勝つっていうのは自分の中で決めていたところだったので、点を決められて良かったという感じで話しました」(髙松)。この試合で首位に立ち、そのまま最後まで首位を守り抜いて1部に昇格。シーズンのターニングポイントだった。「国士舘戦で自分のユニフォームを持って写真を撮ってくれて、1部昇格・2部優勝という結果で示してくれたというのは、今年(2026年)1年を頑張る原動力になっていますし、感謝しています」。  

 

 ソッカー部員にとって、1年に一度しかない晴れ舞台がある。2025年8月17日。早慶女子サッカー定期戦。まだ左手で松葉杖をつく岡田は、等々力陸上競技場のベンチから”早慶戦初勝利”を目指して戦う仲間たちを見つめていた。ビハインドの後半はゴールチャンスもあったが、早大の壁はやはり高く、セットプレーからの2失点で0-2で敗れた。試合後、部員とスタッフがスタンドへの挨拶に向かう。メインスタンド側への挨拶を終え、バックスタンド側へと歩いていく最中、ひとり涙する選手がいた。

 守部葵(当時環4/令8環卒)は岡田の1学年上で、十文字高校時代からのチームメイト。岡田を最もよく知る一人だ。岡田との共通点は出身校だけではない。守部も岡田と同様にディフェンシブMFやDFが主戦場で、そして前十字靱帯断裂の経験があった。 

 守部は中学時代に等々力での早慶戦を観戦し、ソッカー部に憧れを抱いた。大学入学後は、けが、特に故障を繰り返していた膝の痛みとの戦いが続いた。最終学年で等々力での早慶戦に出場したが、チームを初勝利に導くことはできず、試合後にこみ上げるものが溢れ出した。その守部の肩を、岡田が右手でそっと支えた。

 

 2025年シーズン中の復帰はならない中でも、岡田は常に前を向いていた。「リハビリはやることが多くて、チームを離れることも多かったですし、リハビリ以外でもケアに通ったりして大変だったというのが振り返ればありますけど、チームメイトが頑張っている姿を見て自分もみんなとプレーしたいというのもありましたし、一番は『一緒に頑張ろう』と言ってくれる仲間がいて、マインドとしても辛かったというよりかはせっかくだから楽しもうという前向きなマインドで頑張れたと思います」。

 2026年シーズン、当初の予定では4月下旬に復帰できる予定だったが、調整がうまく進まず、実戦への復帰は5月最終週の練習試合となった。

 2026年6月6日。関東大学リーグ1部前期第10節。1−1のタイスコアで迎えた65分頃、ベンチからウォーミングアップゾーンにいる岡田に声がかかった。「恭佳頑張れー!」――応援に訪れていた守部の声が観客席から響く。岡田は黄大城監督と言葉を交わし、71分にピッチに入った。342日ぶりの公式戦の出場だ。自身が強みだと語る巧みなボールタッチも鋭い縦パスも見せた。しかし、終盤にプレスをかわしきれず、ボールをロストすると、相手の決勝点につながってしまった。

 試合後、岡田は責任を感じ、涙が止まらなかった。その時、岡田に寄り添ったのが、等々力の早慶戦で岡田に支えられた守部だった。「まずは復帰おめでとう。復帰できるかも怪しかったから嬉しかった」。けがが想定以上に深刻化し、復帰も危ぶまれた中での出場を祝った。そして、「復帰戦なんてそんなもんだから」。長いブランクがあると、イメージ通りにプレーできない。長期離脱と復帰を何度も繰り返していた守部は、その現実をよく知っていた。必要以上に同情したり、無理になぐさめたりするわけではない。最も近しい境遇を経験した仲間の真っ直ぐな言葉が、岡田の支えとなった。「自分のミスで失点してしまったことに責任を感じていたので、『切り替えて頑張れ』と葵先輩が声をかけてくれて、自分の中でもしっかりと整理してやっていこうと思いました」。

 翌週の前期最終節の早大戦でスタメン出場も、ファーストプレーで右膝の患部を痛め、わずか6分でピッチを後にした。しかし、「メンタル的にはいいメンタルは保てていたと思います。特に落ち込むこともなくて、ゼロからなのであとは上を目指してやるだけと思ってきょう(ゴールを決めた日体大戦)までやってきました」と振り返る。岡田は強い。どんな逆境を迎えても前進し続けた。

 痛みが再発した早大戦から1カ月後の後期第3節。1点ビハインドの87分に投入され、復帰した。90+3分、十文字中学時代から10年目のチームメイトの野村亜未(総4・十文字)が劇的な同点ゴールを決め、貴重な勝ち点1を獲得。岡田にとって力になる出来事だった。「やっぱりチームメイトの頑張りが練習から見られたり、亜未(野村)の前節(東洋大戦)のゴールも気持ちが見えて、自分も頑張らなきゃと思わされて、チームメイトが原動力になっています」。

 右膝前十字靭帯断裂の大けがから384日後、2026年7月18日。関東大学リーグ1部後期第4節。2点ビハインドの82分に投入されると、ファーストプレーだった。野村と同じく十文字中学時代から10年目のチームメイトの野口初奈(環4・十文字)のCKを、ドンピシャのヘディングで合わせる。相手DFに大きく掻き出されたが、ボールはゴールラインを超えていた。嬉しい2季ぶりのゴールは、進み続けた時間が引き寄せた成果だった。

 岡田はチームメイトに支えられてきたと語る。一方で、諦めることなく進み続ける岡田の存在もまた、チームメイトの支えになっていた。

 昨季後半、守部の膝の古傷は完治していなかった。決してベストコンディションではない中で、リーグ戦最終盤で最高のパフォーマンスを発揮できるよう調整していた。守部の原動力となったのが、スタンドやベンチから声を出して仲間を鼓舞し、チームの勝利を心から喜ぶ岡田の姿だった。「(岡田は)苦しかっただろうけど、弱音を吐かずに戦っていた」(守部)。

 「苦しいけど、一緒に戦おう」――ふたりがよく掛け合っていた言葉だ。守部は大学サッカー最後の3試合でスタメン出場し、1部昇格に貢献。4年間を最高の形で締め括った。

 守部は現在、日本女子フットサルリーグのバルドラール浦安ラス・ボニータスの下部チーム、ラス・チュラスに所属している。昨年の12月に膝を手術し、まだプレーはできないが、岡田や1部で奮闘する後輩たちの姿を励みに復帰を目指している。

 岡田のソッカー部人生も、引退まで残りわずか。たとえさらなる逆境が待ち受けていても、前を向いて進み続ける。チームメイトに支えられ、そしてチームメイトの支えとなりながら。

 守部に行った単独インタビューの最後、岡田に向けたエールをもらった。

 

「サッカー大好きな恭佳を見せてください」

 

 

(取材・記事:柄澤晃希)