【ソッカー(男子)】<コラム>苦しみ続けた2017シーズン。2部降格の屈辱を味わった荒鷲軍団の誤算と失敗

来季の2部降格が決定した慶大

 関東リーグ最終節、流経大戦(1●3)。この試合を落とした慶大は、2008年以来10年ぶりとなる2部降格が決定した。開幕前は優勝の目標を掲げて臨んだ今季、終わってみれば22試合を通して1度も連勝を記録できず、最下位に沈んだ。慶大の誤算と失敗はどこにあったのか。シーズンを振り返り、特に顕著だった4つのファクターを分析した。

 

出場すれば身体能力の高さを見せつけていた鴻巣。シーズンを通して稼働できなかったことが悔やまれる

①ケガ人

 須田芳正監督はたびたび「ケガ人を言い訳にはしない」と口にしてきたが、事実、前期の慶大は野戦病院と化していた。主力級だけでも田中健太(4・横浜F・マリノスユース)、池田豊史貴(4・浅野高)、松木駿之介(3・青森山田高)、佐藤海徳(2・桐光学園高)4人が前期を丸ごと棒に振り、守備の要、鴻巣良真(3・国学院久我山高)も前期は5試合の出場にとどまった。昨季まで中心を担っていた田中と松木、そして背番号「9」を託された池田という3人のアタッカーを欠いた攻撃陣が深刻な得点力不足に陥ったのは、必然とも言える。佐藤に関して言えば、両サイドバックを器用にこなす彼がもし前期から戦力に入っていれば、主将の重責に加え右サイドバックで攻守に過剰なタスクを強いられていた手塚朋克(4・静岡学園高)の負担を大きく軽減することができただろう。それは、佐藤復帰後の慶大を見れば一目瞭然であった。ケガ人の多さという前期最大の誤算は、後述するいくつかの要素にも小さくない影響を与えることとなる。

 

開幕前は“ピッチ上の指揮官”と期待されていた片岡。後期はその戦術上ほとんど出番が訪れなかった

ビルドアップ力の欠如

 開幕前、新生慶大が掲げた戦術はパスサッカー&ハイプレスだった。しかし、勝利を収めた法大との開幕戦(2○1)をはじめ、ハイプレスが一定の成果を挙げる一方で、パス回しは一向に安定せず、パスミスからカウンターの餌食となるシーンが激増した。その原因は、後方からのビルドアップの拙さだ。手塚を除けば全員関東リーグでの経験が浅かった守備陣は、一定の守備力こそ示したものの、多くの選手が組み立ての能力に問題を抱えていたことは否めなかった。最終節後、シーズンを振り返った須田監督が「ディフェンスラインが安定しなくて攻守にわたってゲームをコントロールできなかった」と述べたように、特にセンターバックのコンビは鴻巣のケガもあり開幕から幾度となく入れ替わった。ただ、守備陣だけに責任を押し付けることはできない。慶大のパスサッカーは、チームとしての機能性を欠いていた。司令塔の片岡立綺(4・桐蔭学園高)が最終ラインまで落ちてボールを受ければ、当然中盤のパスの選択肢が減る。前線の選手たちは選手同士の距離感が悪く、孤立するシーンが目立った。相手守備陣のギャップでフリーになるような動きや裏への抜け出しなど、ボールを引き出す動きも十分だったとは言い難い。全体として、後方からビルドアップするサッカーへの戦術理解度が低かったのではないだろうか。そうしてゴール欠乏症に陥り7戦勝ちなしで前期を終えた慶大は、夏に後述の大胆な戦術変更に踏み切り、これにより副将を務める片岡はポジションを失うこととなった。

 

一度失点してしまうと立て直せない試合が多く見られた

連続失点

 象徴的なデータがある。10分以内に2失点を喫した回数が、22試合で実に11回。1点失うと立て続けに崩れていってしまう悪癖から、慶大は抜け出すことができなかった。後半に3分間で2失点を喫し敗れた第9節・明大戦(0●3)後、須田監督は「メンタル以外の何物でもない」と連続失点の多さを叱責。流れが悪くなった時に、盛り返す力が決定的に欠けていた。指揮官4年生に対して厳しい言葉を口にすることが多かったのも、経験のある選手たちにチームを鼓舞する役割を期待したからだろう。しかし、後期に入っても改善は見られず。逆転勝利は22試合で1度もなかった。

 

池田は後期、奮闘を見せたが…

新戦術の不発

 前期の不振から脱却すべく、慶大は夏にパスサッカーを諦め、守備とロングボール主体の戦術に切り替えた。攻撃に関して言えばようやく戦列に復帰したジャンボ池田を軸にした戦術だったが、少なくとも結果だけ見れば、これも成功したとは言い難い(実際、前期終了時11位だった順位は1つ落ちて最下位に終わった)極端に池田1人にボールを集める攻撃は、ラインの押し上げと攻撃の意思疎通に一役買った一方で、前期から見られた攻撃の引き出しの少なさに拍車をかけた。前期まで攻撃の中心を担っていた渡辺夏彦(4・国学院久我山高)近藤貫太(4・愛媛FC)といったテクニシャンたちは、武器を生かしきれず苦しんだ。加えて、半年間のブランクもあり体力面に不安のあった池田は、相手センターバックとの競り合いの繰り返しにその献身的なプレースタイルも相まって、後半になるとガス欠を起こす傾向にあった。あらゆる意味で、あまりにも池田にかかる比重が大きかったのだ。もう1人のエアバトラー――松木の復帰がもう少し早ければ、結果は違っていただろうか。

 


「ラスト2試合、下級生も3年生も同期も、本当に必死になって一つになって戦えた」と手塚主将は振り返る。確かに、崖っぷちの状態から首の皮1枚繋ぎとめる勝利を手にした第21節・駒大戦(2○1)、地力の違う相手に内容的には互角以上の戦いを演じた最終節・流経大戦で見せた戦いは、それまでのシーズンで見せてきた弱い慶大の姿ではなかった。ならば結局、「上記のどんな失敗よりも、気持ちの問題だったのではないか?」と問われれば、そうなのかもしれない。ただ、どちらにせよ遅すぎた。

 

 慶大の2部降格が決定する約2時間半前、宿敵・早大2部で劇的な逆転優勝を飾り、1部昇格を手にしていた。彼らは1年前、11位で2部降格の憂き目に遭ったチームだ。自然、来季慶大が目指すのは、今季の早大の再現ということになる。最悪のシーズンを1年で取り返して見せたライバルは、昨季の失敗から何をどのように学んだのだろうか。宿敵を参考にしてみるのも良いかもしれない。成功は、失敗から学ぶことでしか生まれないのだから。

 

(記事 桑原大樹)

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