日本バスケットボール界を支える、2人の男たちの競演が実現した。佐々木HC(慶大)と、倉石総監督(早大)によるスペシャル対談だ。昨年から始まったこの企画。今年も両校の状態から始まり、指導者としての心がけ、現在の日本バスケットボール界の現状、早慶のライバル関係についてまで、幅広く語り合って頂いた。の対談を読めば、大学バスケットボールに更に興味を持つこと間違いなしだろう。
※この対談は、早慶戦のプログラムに掲載されていたもののノーカット版です※
──昨年の早慶戦の振り返りをお願いします。
倉石総監督: 先にイニシアチブを取って有利に進めてたんだけど、後半の頭に慶應さんにイニシアチブを取られ逆転をされてしまい、少し我慢をしたんですけど無理で。そこからお尻を叩いて奮起させて、逆転して勝った、という試合でしたね。
──具体的な指示はありましたか。
倉石総監督: 早慶戦みたいな大きな試合だと雰囲気があるんで、勢いが非常に重要になるんですね。第3Qから第4Qにかけて逃げに立っていたんで、自分達のプレーをしてても魂が入ってないというか。相手に攻められても防戦一方で守る形になっちゃったんで、守りから仕掛けて行きなさいと。自分達の勢いを付ける為に積極的に仕掛けなさいというのが指示でした。
佐々木HC: ウチは昨年の春はあまり調子が良く無かったので、早慶戦くらい頑張らなきゃっていうことでチャレンジャーの気持ちで格上の早稲田にぶつかって行こうということで。そういう意味でいうと少しチームになったんだけど、最後は自力の差が出て、というそんな戦いでしたね。
──早慶戦へのピーキングは、どのようになさっていますか。
倉石総監督: 今年大変なのは、慶應さんも一緒なんだけど、4月の終わりから京王電鉄杯があって、すぐにそのままトーナメントがあって、それが終わってすぐ李相佰があって、それが終わって早慶戦だから、4月の最終週から早慶戦までの毎週土日はほぼゲームなんですよ。だから調整しろっていう方が難しくて、練習も気を抜けないしその試合の一つ一つも疎かに出来ないし、結構大変です。今まで例年に無いくらいゲーム数が多いです。なので、プランはこれから立てなきゃいけないなという感じです。今日の六大学も、どこの大学もそうなんだけどやっつけ仕事みたいな形で、春のトレーニングをどれぐらい詰めたかな、ぐらいの形でしか見てないので。これでやっとトレーニングの計画を立てられるかなという感じです。
佐々木HC: 我々はいつも春は出来が遅いので。そういう意味ではトーナメントも電鉄杯も、出来上がらないまま行くような感じなので。今年はトーナメントは厳しい山に入った様なので。その分ウチの方が早く負けそうなので、練習は少し出来るかなっていう感じです。やっぱり早稲田さんのバランスがいいチーム状況に、ウチは優っているところが今のところ見つけられないので、そういう意味で言ったら気持ちを入れてトレーニングからもう一度始めないと追い付かないな、と思っています。
──春休みの成果は、六大学リーグ戦で発揮されましたか。
倉石総監督: 全くないね。全くないっていうよりも、2月から陸上トレーニングをずっとやっていて、データばかりをずっと取っていたので。そのデータの評価をできる様にはなっているんだけど、それが即バスケットに繋がるかっていうと、繋がる状況ではないですね。陸上担当の先生と話を進めながらやっているんだけど、ボールゲームにはこういうトレーニングが一番マッチしているだろう、くらいの研究成果くらいにはなるかも知れないんで。それがこの六大学に良い成果として出たかと言ったら、悪い成果として出ていたかなと。どちらかといったら、ずーっとバスケットをやってた明治さんの方が体力がある様に見えますよね。僕らはランニングだとか走るフォームを整えたりだとか、そういう体幹トレーニングばっかりやってきたので、根本的な体力が無いっていう風に受けたよね。
佐々木HC: 色々な試合を戦うには日本一の体力がなきゃいけないと思っているので、一か月間は体育館で体力トレーニングをやっていたので。六大学の目標は当然勝ちたいんですけども、一か月の体力トレーニングがどれくらいゲームで発揮出来るかっていうのを一つ目標にしていたので、そういう意味ではまだトレーニングが足りないなと。質をもう少し上げないといけないなと思いましたね。
──早慶戦は定期戦だが、公式戦との違いは何ですか?
倉石総監督: 結構愚問だと思うんだけど、トーナメントだとかリーグ戦っていうのは大会自体に流れがあって、勢いを付けて行かなければならないです。トーナメントとかは特に両チームがシードチームなので、初戦は結構楽に戦って行ける。でもその中で、チームとしての勢いを付けて行かないと、一週間の間にあっという間に終わっちゃう訳で。毎日毎日ゲームになるから、チーム自体がトーナメントの勢いに乗れるっていう形を作らないといけないですね。リーグ戦はリーグ戦で毎週土日試合をやって行くんで、最初が1だったら最後が10になるくらいの気持ちでチームを作り上げて行く、盛り上げて行くっていう格好を作らなければならないです。でも定期戦に関しては一発勝負なんで、色んな要素を全て考えて行かないといけない。しかもリーグ戦やトーナメントには無い雰囲気が早慶戦にはあるんで、その雰囲気に飲まれない心身共に充実を計るような形をそこに持って行かないと、これって弾け飛んで終わっちゃうんで。あれだけ出来てたのにどうして出来ないんだ、っていうのが平気で起こるんで、そういう風なことが無いようにしなければならないですね。
佐々木HC: ウチはちょっと前まではトーナメントと定期戦の2つをピークに春を戦って来たんですけど、ここ2、3年はトーナメントもあまりいい成績が出てないので。早慶戦に勝てば、OBも許してくれるので(笑)今年はそこ一本に絞ってやらないといけないと思ってますね。今年は格別に定期戦を取りに行かなきゃいけないと思ってます。
倉石総監督『継続性が重要だと思っている』
佐々木HC『日本人向きのバスケットを』
──洛南高出身者の成功の由縁は、どうお考えですか。
倉石総監督: 洛南高の指導者が、ナショナルチームの代表だったり大学界で活躍出来る選手を育成してるからですよね。中学校からリクルートしている時点で将来を見据えた形での指導をして、そういう選手にも文武両道の世界を作って早慶に選手を送れてる、ってことですよね。今年の1年生にしても相当使えると思ってます。スターターだった選手が3人来たので、早大としては即戦力です。ウチの一番のウィークポイントであるリバウンドっていうところに感して、宮脇は相当いいですし。ポイントガードとして取った河合も、シュート力が凄くあるんで戦力になると思います。ポイントガードに大塚っていう大きな穴が開いたんで、そこを埋めるには十分かなと思ってます。
佐々木HC: ウチに取っても洛南の卒業生は貴重な戦力です。なおかつ他の出身の選手に比べると、体力レベルが相当高いですよね。今後も文武両道で、人材を多く送って頂きたいと思っていますけどね。
──外国人留学生の特徴や、その対策はありますか。
倉石総監督: 全く考えてないけど、考えて無いのは逃げてるのかって言われるのは嫌なので根本的に言うと。我々としたら日本代表になるような選手を育てるっていうことは最終的な目標なんで、我々は通過点で、その上にNBLに選手を送り出してその選手が日本代表になる、っていうことは早慶共に目指している所だと思います。そういうことを考えたら、外国人留学生がいたとしてもその選手に引けを取らないくらいのプレーをするっていうのは、我々としても狙っている所なので。彼らが出てきたところで怯むことなく果敢にチャレンジして行くっていう形を取らないと、国際ゲームで勝てない訳で、当たり前の世界なんでそんなのは当たり前として考えないといけないんですけど。相手チームはその選手に対して、チームの大黒柱として彼らに期待する部分は非常に大きいと思うんだけど、それを潰してこそ我々としてはゲームが面白くて、対等に戦ったりすることは、我々としては面白くないです。
佐々木HC: ある意味スモールナショナルチーム的な考え方で、2部にも外国人留学生の選手はいますので。簡単に言うとチームディフェンス、チームオフェンスで身長とか運動能力とかのハンディキャップを埋められていけると、ナショナルチームの役に立つような対応策というか。そういうものになるので、考えながらやっています。
──現在の日本バスケのレベルは、どの位置にあると思いますか?
倉石総監督: レベルは下がっているより上がっていると思うんですけど、世界のレベルの上がり方はもっと激しくて、日本がそれと比べてちょっと遅れているというか。だから世界と日本の現状っていうのは、30年前に例えば10くらいの差だったとすると、今は20くらいの差になっちゃってる。日本が遅れているという訳でも無いんで。その辺を根本的に考えて行かなきゃいけないかなとは思ってます。
佐々木HC: 今のナショナルチームを見ると、個性のある選手がちょっと少ないかなと、そう思って見ています。ですからポイントガードにしろシューターにしろ、特徴ある選手がちょっと少なすぎる。そんな気がしてますので、世界でもアジアでも、もうちょっと個性のある選手を育てて戦う準備をしなきゃいけないのかなという感じはしてます。
──日本バスケに必要なことは何ですか?
倉石総監督: 今そういうことを見直している最中で、佐々木先生と協力しながらやっています。日本バスケットボール協会の中で大きな柱は2つあって、一つは指導者の育成であるし、もう一つは選手の育成っていうことで。選手の育成も今ミニバスから根本的に見直しを図っているので、これから中高大という形で、ミニバスのところから一貫した形で大きなものを得る、という風に考えていますね。各年代毎にその場で凌いでると、それがブチ切れになっちゃって。年間を通した評価を続けて行くっていう継続性が重要だと思っているんで。そして指導者も増やして行かないと、今これだけ競技人口が多くてチーム数が多いのにも関わらず、競技者に教える為の公認コーチの資格を持っている人がとても少ないので。やっぱり我々としてはこういう風な指導をしてもらいたいっていう情報を共有して貰いたいんで、それを全部受けてもらえる人を作るには公認コーチになってもらわないと困るので。それを今3倍増にしないといけないんで、これは我々としてはとても大変なことなんですけど、やらないといけないなと思っています。それが実現すると一気にもっと良い選手が出てくる様な気がしますけどね。
佐々木HC: 倉石さんに仰って頂いたので、私はちょっと別の視点から言うと、男子は40年くらいオリンピックに行けていない。そのことは、アメリカのバスケットを多くの指導者が研究に行き、それを実践して来た結果として出た結果ということがもしかしたらあるかなという気がしていて。そういう考えになるのは、女子を見ていると日本人に合った様なバスケットをしている様な気がするんですよね。ですから、今後男子も日本人に向いた様な、日本人でもこなして国際的に対応出来る様なバスケットを探して行かないといけないかなと感じていまして。それは、女子がもう一歩でオリンピックに行けそうという現状を見ると、日本人向きのバスケットを男子も早く探さなきゃいけないかなと。それを探すシステムは今、倉石先生に仰って頂いた様に、選手の育成と指導者の育成が上手く噛み合って、というのが一番の近道かなと思っています。
倉石総監督『見ないと肌で感じられません』
佐々木HC『向かって行く気持ち』
──それでは、早慶戦に話題を戻します。今季のチームと昨季のチームとの違いは何ですか。
倉石総監督: ウチはメンバーが大塚一人抜けただけなので、戦力的にはそんなにダウンしていないんだけれども。河上がユニバーシアードだとか、そういう所で練習を重ねていることが、ウチとしてはプラスになっている様な気がふるんですよね。プラス、彼はこれまでインサイドに控えが誰もいなかったのでインサイドをやらざるを得なくて、4番5番をやっていたんだけれども、宮脇が入って来たお陰で彼を3番に上げることが出来て、将来のことを考えたら3番2番のポジションをやってもらわないと困るということが自分としてはあるので。そういう所で活躍出来る様なことが起こると、チームとしては相当プラスアルファでサイズもデカくなるし、いい戦いが出来る様になるんではないかなと思っています。彼のポジションアップというのは、チームとして大分向上出来るのではないかと。失敗すれば大変なことになりますけどね。
佐々木HC: ウチは人材的には大きな抜けは無いんですけど、新しい力がゼロなので、昨年のチームを現状維持というところです。早稲田とは相当実力差がある様に判断していますので、さっき言った様にチームオフェンス、チームディフェンスで個々の力、あるいは新しい力で差のあるところをカバーしなければいけないかなと。現状は変わっていないですけど、早稲田の方が相当良くなっていますので、差は開いているかなと、そんな感じがします。
──今年の早慶戦でのキーマンは誰ですか。
倉石総監督: ウチは看板が河上だから、河上ですね。もし河上が抜けたりしたらいないで考えなきゃいけないけど…あんまり考えたくないね、今は。彼中心にチームを作らないと、折角4年間育てて来たんで、彼中心にチームを構成してますね。
佐々木HC: キーマンとしては、昨年怪我殆ど使えなかった蛯名と矢嶋が、どれぐらい早慶戦に向けて体も心もピークを作れるかということだと思うので、キーマンはこの2人ですね。
──相手チームで警戒する選手はいますか。
倉石総監督: やっぱり矢嶋とか蛯名とかは嫌ですよね。矢嶋は外の飛び道具をいっぱいもっていますし、瞬発的な動きっていうのは結構シャープなんで。彼にマッチアップする人間を──まあ、佐々木先生が彼を2番で使ったり3番で使ったり、上手く色んなことをしてくれるんで、ウチはその度に誰がマッチアップをするんだということを考えないといけない訳で。大っきいのを付けちゃうと足元抜かれるし、かといって小さいのをやると彼は運動能力が高いんで、今度はミスマッチを使われるんで。その辺がウチとしては厄介ですね。
佐々木HC: インサイドも相手のシューターも、早稲田の方が力が上なので、そういう意味でいったら非常に難しい戦いになりますね。だから、誰を気を付けろというより全員ですかね。ガードが少しチャンスかなと思っていたんですけど、今回見たらガードだって5枚くらいいるので、全員が要注意人物ですね。
──早慶戦のファンや応援に来て下さる方々へ、一言お願いします。
倉石総監督: 大学界の中でも心身共に充実した戦い方をする両チームなので、見ていてスキルだとか今いる陣容だけではないものもあるので、これは見ないと肌で感じられませんし。是非とも会場に足を運んでもらって、それをヒシヒシと感じるようなメンタル的な、いがみ合っている様な、そういうものを感じてもらえると凄く嬉しいと思います。
佐々木HC: 出来ればウチは、早慶戦のジンクスというか伝統というか、弱い方が頑張っているというところを実現したいかなと思います。力が劣っていても、心や考え方とか、そういう所で上手な相手に挑んで行けるよという試合を見て頂きたいなと思います。大学スポーツというのは、体とか技術も大事ですけど、向かって行く気持ちとかチームとしての一体感。それでウチは戦うしかないので、是非それを観客として、応援として足を運んで頂いて、実感して頂きたいなと思います。
1948年福岡県生まれ。現慶大ヘッドコーチ。日本体育大学を卒業後、慶大女子部コーチを13年間務める。1992年から、母校である日体大の女子部を率いると、関東女子1部リーグを8連覇、インカレでも1度の優勝と7度の準優勝を果たすなど、日体大女子部の黄金期を築いた。その後、慶大ヘッドコーチに就任すると、それまで低迷していた慶大を2度のインカレ優勝(2004年、2008年)に導いた。竹内公輔(総卒・現トヨタアルバルク)、岩下達郎(総卒)ら、世代を代表するビッグマンを輩出するなど、ビッグマンの育成には定評がある。今年度いっぱいで定年退職となる名将は、勝利を目指して戦い抜く。
1956年新潟県生まれ。現早大総監督。選手としては、早稲田実業高で国体優勝を成し遂げる。早大卒業後は熊谷組に入社、日本代表にも選出された。現役を退いたのち、1989年から熊谷組のヘッドコーチに就任し、チームを2度の日本リーグ制覇へと導いた。その後、日立サンロッカーズのヘッドコーチを経て、2002年から早大アシスタントコーチを務める。2010年には総監督に就任し、早大を関東リーグ1部昇格へと導いた。現在は早大総監督との兼任で、日本バスケットボール協会の指導者育成委員会委員長を務めている。
※この取材は、3月20日に行いました。また、この対談は第70回早慶戦のプログラムにも掲載されているため、当HPでは早慶戦後の公開となりました。※
(取材・大地一輝、取材協力・早稲田スポーツ新聞会)
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